研究課題/領域番号 |
18K00351
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
氏岡 真士 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (60303484)
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研究分担者 |
伊藤 加奈子 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (80293489)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水滸 |
研究実績の概要 |
『水滸伝』はいずれのテキストも悲劇的結末に終わるが、そこに至る過程は必ずしも一様ではない。またそれに満足できなかったためか、清代には続書的作品群が生まれている。これらが研究対象である。 17世紀の明末清初は、梁山泊の好漢に同情的な分巻・不分巻百回本や百二十回本また簡本『水滸伝』に対して、彼らに批判的な七十回本も出現している。とはいえ前者の影響力は強く、陳忱『水滸後伝』や青蓮室主人『後水滸伝』はその流れを汲む続書と言えよう。いっぽうで後者同様に反梁山泊的な介石逸叟『宣和譜(翻水滸)』が、恐らくこの時期に生まれた戯曲である点は注意を要する。 その後18世紀には七十回本が版を重ねる一方、その続編と見なしうる『征四寇』が簡本を再編する形で登場する。この時期には百二十回本の内容に大きく手を加えた宮廷大戯『忠義セン図』(センは王+旋)も成立するが、宮廷用という性質から思想傾向が七十回本に接近するのは当然であろう。なおこの時期には、日本でも『水滸伝』が熱心に読まれている。 19世紀になると騒然たる世情をも反映して、七十回本の続書という旗幟を鮮明にした『蕩寇志(結水滸伝)』が刊行されるが、他方で百二十四回本や八巻百十五回本など新たな簡本もこの時期までに出現して、やがて清末に至るのである。 以上に概観した『水滸伝』とその続書的作品群の具体像を、本研究は明らかにしつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
続書のうち『水滸後伝』については、まず原刻本について国内所蔵諸本に加えて大英図書館など海外蔵本も含めた比較分析を行ない、この系統のテキストが何度も版を重ねたことや諸本の相互関係等について整理を進めた。また作品中に見られる『水滸伝』の影響や他の作品等との関係について、従来あまり注目されなかった観点から論考をまとめつつある。 『忠義セン図』については中国国家図書館蔵本各種の調査結果を踏まえ、さらに首都図書館所蔵の残本に注目し、この作品のテキストと内容の変遷について、『義侠記』・『十字坡』あるいは『綴白裘』諸本に収める「殺貨(郎)」・「打店」など明清の関連作品も含めて、武松戯を中心に比較分析した論考を、別記のように既に公表した。 『水滸伝』は江戸時代の日本でも愛読され、その研究は近年盛んだが、当時の唐話辞書として有名な『俗語解』における利用状況を、岡白駒『水滸伝訳解』・『小説精言』「訳義」や陶山南涛(陶冕)『忠義水滸伝解』・『忠義水滸伝鈔訳』も含めて明らかにし、『俗語解』の沢田一斎撰写説を再検討した論考も、別記のように公開済みである。 なお大英図書館では『水滸後伝』以外の関連資料も調査しており、たとえば『蕩寇志(結水滸伝)』についても貴重な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は三年計画の最終年度に当たるため、これまでに調査分析して得た知見の公表と総括を含めて研究を進めたい。 続書のうち『水滸後伝』については、まず原刻本を中心としたテキストに関して先行研究の論点も整理したうえで、所見を明らかにしたい。また作品に『水滸伝』が与えた影響や関連作品との見過ごされてきた共通点についても、新たな見地からまとめた論考を、やはり公表したい。 他の続書的作品のうち『後水滸伝』や『忠義セン図』については、すでに新たな知見を発表済みであるが、まだその機会を得ない『存廬新編宣和譜(翻水滸記)』や『蕩寇志(結水滸伝)』についても、一定の見解を述べることを期している。 『水滸伝』そのものに関しても、明清間のテキストの問題や江戸時代の受容など、まだまだ論ずべき問題が多い。たとえば石渠閣補刊本について研究代表者は既に北京蔵本に即して論じたが、最近になって国内でも完全に近いテキストが発見され、多くの論考が出ている。また三十卷本についても研究代表者は既に国内外のテキストに即して論じているが、新たに海外の某氏が注目すべき研究を発表予定と聞く。さらに容与堂本のうち、従来は必ずしも明らかでなかった海外蔵本の一つの実態解明が懸案である。江戸時代の受容については、別記の論考の発展を要する。これらについても研究を続けたい。
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