本研究はこれまで四半世紀にわたって実施してきた明版書誌調査の成果を、知見目録の形に取りまとめ、明版書誌研究、ひいては明代出版史の史料的基礎をより確かなものにしようというもので、当初の二年間はおおむね順調に推移していた。すなわち本研究が開始される以前に、すでに著録をすませていた約1300点の書誌記述を改めて検討、訂補しつつ、台湾に赴いての書誌調査も継続し、新たな明版書誌を二年間で約90点収集し、著録についても約150点の追加を果しえた。さらに当初の二年間に在っては、台湾、大陸、韓国の図書館、大学等との学術交流も進められたし、著書、論文や箚記の発表もほぼ予定どおりに行なうことができた。 しかし2020年度になると、新型コロナ感染症の世界的大流行によって情況は一変し、台湾における書誌調査は完全に不可能となったし、国内における調査も出張を行ないえない状況が続いたことで、停止状態に陥った。さらにこれまでは、アルバイト(短期雇用)の院生等に資料の初歩的、技術的整理、および整理されたデータの入力を担当してもらっていたのだが、これも学生の登校が制限される情況では停止せざるを得なくなった。こうして著録については、研究代表者が最初からすべて一人で行なうしかなくなったのであるが、オンライン講義等、今までにはなかった新たな校務負担が生じたため、その進行は緩慢なものとならざるを得ず、新たに著録を果たした書誌は20数点にとどまった。それでも論文や箚記の発表は何とか継続しえたのであるが、当初考えていた目録公刊に目途をつけることは無理となった。 なおこうした情況から、研究期間の延長も当然考えられたのであるが、研究代表者が20年度末をもって定年退官するという事情により、延長の手続きは行なわず、本研究を一度終了させた後、改めて個人的な仕事としてのこりの目録原稿を仕上げ、その公刊をはかることとした。
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