研究課題/領域番号 |
18K00355
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
秋吉 收 九州大学, 言語文化研究院, 准教授 (90275438)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中国近代文学 / 日本近代文学 / 台湾文学 / 魯迅 / 周作人 |
研究実績の概要 |
近代文学における中国と日本との接点、中国における日本近代文学の受容に関する研究として、当該研究初年度たる今年においては、研究担当者がこれまで取り組んできた魯迅を中心とする中国近代文学現象の研究と関連文献の調査を開始した。 実績として、一年間に以下1件の共著著書と、3篇の学術論文を執筆した。共著:『当代文芸評論視域中的魯迅伝統』(ISBN:978-7-02-013899-9)曹衛東編[孫郁ほか26名執筆]2018年4月、人民文学出版社(北京)刊。分担執筆「“敵人”対魯迅《野草》的影響」では、日中の架け橋たる魯迅の代表詩集『野草』を巡る問題点を新たな視点から探求した。論文「台湾文学とは何か―言語そして日本―」(『北九州国文』第45号 福岡県高等学校国語部会 2018年5月)では、台湾文学と日本の複雑さを新機軸によって解説した。「成ホウ吾与魯迅《野草》」(『済南大学学報(社会科学版)』第28巻第3期 119-126頁 2018年5月。『中国現代、当代文学研究』2018年第8期〔中国人民大学書報資料中心〕転載)では、魯迅作品の原点について新発見を披瀝した。張明敏氏との共著「一台湾作家の訳した魯迅―楊逵編「“中日文対照”中国文芸叢書」『阿Q正伝』をめぐって」(『野草』第101号 25~49頁 中国文芸研究会 2018年10月)では、台湾の研究者と共同で、台湾における魯迅翻訳を、日本の中国文学者増田渉の介在に注目しつつ新たな視点から解読した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績欄に記入した当該研究に関する共著及び学術論文4篇のほか、研究発表、講演を5回行うことで、初年度の研究目的は、基本的に充足できたと考える。また、近代中国の最も代表的な学術誌『新青年』についても、研究を進めている。 発表講演の内容は以下の通り。講演「現代中国文学和日本文学的交流―近代文学における日本と中国」(講座「アジア共同体への展望-文学・文化の伝統と共有-」於中国済南市、国立山東大学 2018年6月22日)、「錯綜的周作人和魯迅―従『新青年』上的「随感録」談起」(『首届周作人国際学術研討会 基礎資料的鉤沈與整理』 於早稲田大学 2018年7月6日)、「周氏兄弟与『新青年』――以『随感録』為中心」(北京大学中国語言文系、中国現代文学研究会主催『周氏兄弟與文学革命学術研討会』於北京大学 2018年9月22日)、「“台湾的魯迅”与日本語版《阿Q正伝》」(中国魯迅研究会・海南師範大学文学院主催『魯迅與中国現代文芸復興思潮国際学術研討会曁2018年中国魯迅研究会年会』 於海南師範大学 2018年11月15日)、「第二言語教育と時代相―日中戦時下における中国語教育瞥見」(『第一回北東アジア言語教育研究会』 於九州大学西新プラザ 2019年3月2日)。『新青年』については、学会プロシーディングス「錯綜的周作人和魯迅―従『新青年』上的「随感録」談起」(『首届周作人国際学術研討会論文集 基礎資料的鉤沈與整理』早稲田大学、2018年7月)、「周氏兄弟与『新青年』――以『随感録』為中心」(『「周氏兄弟与文学革命」学術研討会論文集』北京大学中国語言文系、中国現代文学研究会、2018年9月)
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今後の研究の推進方策 |
まずは、『現代日本小説集』について、そこに収録された日本近代文学15作家のそれぞれの作品(その多くはいまだ全く研究されていない)について、新聞雑誌への掲載状況等を詳細に調査し、中国への翻訳紹介の実態について分析を進める。さらに、『現代日本小説集』以外の、魯迅と周作人の日本近代文学への取り組みについて考察を進める。魯迅が最初に翻訳した日本文学作品は、有島武郎「ある青年の夢」で1919年のことであったが、彼はその後も厨川白村『苦悶の象徴』(1924年訳)、『象牙の塔を出て』(1925年訳)など、積極的に日本文学紹介の筆を執っている。周作人も、1918年に北京大学で「日本近三十年小説之発達」と題する講演を行って日本文学研究の先鞭をつけるとともに、やはり数多くの翻訳を行った。こうした活動についても、先行研究の不足を補いつつ更なる分析を進める。彼らの選択を当時の日本文学界の状況と照らし合わせつつ、各作家作品に対する意識を探る。また、日本文学を中国文学の視点、つまり異なる文学観、歴史、制度からどのように選択・受容されたかを究明し、日本における認識との相違点等を分析する作業を進める。同時に、中国がどう日本に受容されたかについて、これまでほとんど精査されたことのない、雑誌メディアから辿ることも企図する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:概ね、計画通りに使用できたが、予定していた翻訳外部委託を行わなかったことなどで、今年度の予算を完全にゼロにすることにならなかった。だがその額は全体の約5%に留まるため、研究遂行に大きな変更の必要は生じないと考えている。 使用計画:前年度に購入予定であった書籍等を当初の計画通りに入手することにより、研究に活用していきたいと考えている。
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