研究課題/領域番号 |
18K00355
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
秋吉 收 九州大学, 言語文化研究院, 教授 (90275438)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メディア / 中国近代文学 / 日本近代文学 / 魯迅 / 周作人 / 『新青年』 |
研究実績の概要 |
研究タイトルたる「翻訳、雑誌メディアから辿る、近代文学における中国と日本の接点の研究」として、当該研究二年目に当たる今年度においては、まず「メディア」の点から研究を進めた。さらには、研究担当者の専門分野たる魯迅を中心とする中国近代文学現象の研究と関連文献の調査に引き続き従事した。 実績として、一年間に以下1件の共著著書と、2篇の学術論文、加えて2篇の学会提出論文を執筆した。共著:『魯迅在伝統与世界之間』(ISBN: 9787511560100)孫郁主編[張夢陽ほか28名執筆]2019年5月、人民日報出版社(北京)刊(2017年度中央高等建設世界一流大学特色発展引導専項資金による出版)。本書中、分担執筆の「成ホウ吾与魯迅《野草》」において、魯迅の散文詩集『野草』及び日本留学経験のある成の文学を通して、魯迅文学を再照射すると共に中国と日本の交流について卑見を提示した。論文:「周氏兄弟と『新青年』―版本調査に基づく新たな視角―」(『文化論集第55号:「周作人国際学術シンポジウム」特集号』 早稲田大学商学同攻会 2019年9月)では、近代中国において最も影響力の大きかった雑誌『新青年』を取り上げ、従来全く気付かれていなかったテキスト上、版本上の極めて重大な問題を発見したことにより、内外の学会において、大きな注目を得た。「中日学術研究に横たわる隘路―周作人編『現代日本小説集』研究を例として―」(『言語科学』第55号 九州大学言語文化研究院 2020年3月)では、主たる研究対象たる『現代日本小説集』の特に本場中国における研究状況を紹介すると共に、その重篤たる欠陥を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績欄に記入した当該研究に関する共著及び学術論文3篇のほか、研究発表、講演を5回行い、また中国文学に関する書評を一篇執筆した。特に、近代中国の最も重要な学術雑誌『新青年』について、その資料としての根幹となる版本研究論文を執筆できたことは、意義ある成果と言えるのではなかろうか。研究目的は、基本的に充足できたと考える。 なお、発表・講演の内容は以下の通り。講演「魯迅『野草』新論―與日本現代文学的交流為中心」(『中南大学文学与新聞伝播学院学術講座』 於中国長沙市 中南大学 2019年9月20日)、「印度詩人泰戈爾與魯迅的時代」(中国魯迅研究会・湖南大学文学院主催『魯迅與五四新文化―紀念五四運動一百周年国際学術研討会曁2019年中国魯迅研究会年会』 於湖南大学 2019年9月21日)、基調講演「交差する日本現代文学と中国文学―魯迅研究の視点から」(『中国日語教学研究会2019年度学術大会曁日本学研究国際研討会』於杭州師範大学 2019年11月2日)、講演「現代中国文学和日本文学的交流-以周氏兄弟和一个日本女作家為中心」(『杭州師範大学 外国語学部日本語日本文学 講座』 於杭州師範大学 2019年11月4日)、「中国人日本留学生と近代日本文壇の接点―魯迅周作人兄弟の翻訳を端緒として」(『東アジアの民主主義を台湾から考える―雷震日本留学百年記念・逝去四十周年記念国際シンポジウム』 於愛知県立大学 2019年11月9日)。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、近代における日中文学の架け橋たる魯迅を中心として研究を進め、また『新青年』研究にも取り組んだところであるが、今後は、まず周作人編『現代日本小説集』を中心に、新聞雑誌への掲載状況等を詳細に調査し、中国への翻訳紹介の実態について分析を深めるべく、準備を進めている。今年度に執筆した論文「中日学術研究に横たわる隘路―周作人編『現代日本小説集』研究を例として―」では、特に『現代日本小説集』の「附録」(著者に関する説明)を手掛かりとして、日本の近代文学が如何に中国に受容されたのか、その端緒に踏み込むことができた。さらに、『現代日本小説集』以外の、魯迅と周作人の日本近代文学への取り組みについて考察を進めていく予定である。研究を通して、魯迅に加えて周作人が、如何に重要な役割を有していたかが次第に明らかになりつつある。周作人の日本に関する著述、訳作は膨大であるが、特に、本研究の目的たる雑誌などの「メディア」に着目して、分析と研究を進めていく。現在、中国の近代文人と日本の近代雑誌の接触状況について詳細な調査を進めており、まずはその結果を提示していきたい。同時に、中国がどう日本に受容されたかについて、これまでほとんど精査されたことのない雑誌メディアから辿る作業を引き続き進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:概ね、計画通りに使用できたが、2020年3月に四川大学での開催と、招待講演及び学会発表が決定していた国際学会が、コロナウイルスによって急遽中止となった。学会への参加のために準備していた旅費がそのまま残ったが、当該学会は翌年度に開催予定との連絡が来ており、次年度へと繰り越して使用する予定である。そのため、今年度の予算を完全にゼロにすることにならなかったが、研究遂行に大きな変更の必要は生じないと考えている。 使用計画:上記の学会参加を中心として、関係研究資料入手等、研究に活用していきたいと考えている。
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