研究課題/領域番号 |
18K00355
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
秋吉 收 九州大学, 言語文化研究院, 教授 (90275438)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中国近代文学 / 日本近代文学 / 魯迅 / 周作人 / 『文学週刊』 |
研究実績の概要 |
日本文学を中国文学の視点、つまり異なる文学観、歴史、制度からどのように選択・受容されたかを究明し、日本における認識との相違点等を分析するという研究目的に根ざした、本研究「翻訳、雑誌メディアから辿る、近代文学における中国と日本の接点の研究」、当該研究三年目に当たる今年度においては、近代中国と日本の雑誌・メディアに一層注目しつつ、研究を進めた。また、研究担当者の専門分野たる魯迅を中心とする中国近代文学現象の研究と関連文献の調査に引き続き従事した。 実績として、一年間に以下2篇の学術論文を執筆した。「芥川龍之介与魯迅」(中国語による執筆)(『世界漢学研究』【2021新春専欄 web掲載】 世界漢学研究会 2021年2月)では、芥川の作品(「鼻」「羅生門」)を中国で最初に翻訳した魯迅と日本近代文学の深く微妙な関係を、従来とは異なる視点から読み解き、学界に注目を得た。該論文を通して、魯迅や近代中国の文学者が自己の作品・翻訳等の文章発表に当たって、掲載雑誌(メディア)の選択を如何に強く意識していたかが明らかになった。「成ホウ吾「詩之防禦戦」と北京星星文学社『文学週刊』―再論:魯迅『野草』と成ホウ吾」(『言語科学』第56号 九州大学言語文化研究院 2021年3月)では、研究担当者の「魯迅」研究に対する中国(イデオロギー的に魯迅をやや神格化)からの批判を論駁するとともに、新たな発見を提示した。特に、稀覯書に属する新聞『文学週刊』の詳細な調査によって近代中国の文学団体創造社の知られざる内実に迫ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績欄に記入した当該研究に関する学術論文2篇のほか、「書評」を数篇執筆するなど研究担当者の領域を確実に把捉しつつ、課題研究を進めた。『世界漢学研究』という、世界組織の中国学研究誌に論文を登載することができ、また、研究担当者の研究に対する中国からの批判とそれに対する反論・究明を通して、これまで以上に、日本に留まらないグローバルな研究地平を開拓できたように思う。 ただ今年については、コロナ肺炎の影響で予定していた国内・海外での調査が一切実行できず、また参加予定であった内外の学会もほとんどすべてキャンセルとなってしまい、残念ながら予定していた研究計画を遂行することは極めて困難であった。来年度以降に向けて、調査などの計画を改めて立て直して進めることが必要となっている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、各雑誌・メディアに掲載された日本文学翻訳・紹介、また出版刊行された日本文学翻訳単行本を徹底的に渉猟する作業を進める。それぞれの日本作家の翻訳、評論文章の著者について可能な限り探索し、日本語、日本文学との接点、また同時にその周辺(文学傾向、活動)の状況についても、詳細な調査を進める。そうした調査を通じて、日本近代文学が、中国における異なる文学観、歴史、制度の中で、どのように受容され、異化されていったのかを究明する。また、各作家・作品に対する中国(及び台湾)での評価が、日本での評価とどのように異なるかにも注目しつつ、中国(台湾)と日本の文学観、引いては民族、文化基盤の相違について考察を行う。 日本の雑誌における中国との接点としては、これまでも取り上げられてきた『大陸新報』や『新申報』など(従来、主として戦争・政治面に関する研究中心)も参照しつつ、例えば魯迅との関連で申請者が注目する『日本評論』や『改造』などを新たな視点から取り上げたいと考えている。 また、申請者はこれまで魯迅関係資料等の翻訳紹介に取り組んできたが、今回の申請課題に関する重要文献を積極的に翻訳或いは紹介していくとともに、中国における日本近代文学受容のデータベースを作成したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:今年度は、当該研究の三年目で研究完了年度の一年前ということで、国内・海外の研究機関を集中的に訪問して、実地調査、現地でしか得られない資料を徹底的に収集する予定であったが、コロナ肺炎の影響で、その殆どを中止せざるを得ない状況になった。次年度へと繰り越して使用する予定である。 使用計画:今年度の計画を後ろ倒しで次年度に繰り越すと共に、当該研究に活用していきたいと考えている。
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