研究課題/領域番号 |
18K00357
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
佐々木 睦 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (20315732)
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研究分担者 |
加部 勇一郎 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (30553044)
上原 かおり (関野かおり) 首都大学東京, 人文科学研究科, 客員研究員 (30815478)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 児童 / 少年 / 少女 / 雑誌 / 児童文学 / 児童表象 / 図像学 / 漫画 |
研究実績の概要 |
今年度は当初の計画通り二度の研究会(中国空想メディア研究会)を公開形式で行った。 第7回中国空想メディア研究会「〈少年〉〈少女〉へのアプローチ」/2018年8月3日/首都大学東京。佐々木睦「「冒険」も海をわたったか ──民国期児童雑誌の南洋一郎受容」、加部勇一郎「“童年”を彩るモノとコト ―アメと包み紙を中心に」、上原かおり「雑誌『新少年』に見る「新少年」のイメージ」、夏寒(首都大学東京大学院修士課程)「『漫友』に魅了された少年少女たち」、周舒静(同博士課程)「香港製ドラマの剽窃疑惑について」、朱沁雪(同博士課程)「行って帰る」の冒険物語について」。 第8回中国空想メディア研究会「中国空想メディア研究最前線」/2019年3月4日/首都大学東京。佐々木睦「黎錦暉「葡萄仙子」と宝塚少女歌劇団」(附:大阪国際児童文学館・池田文庫調査報告)、加部勇一郎「連環画を用いた“童年”研究の可能性について──賀友直『賀友直画自己』を中心に」、上原かおり「『少年』と『新少年』の読者に関する一考察」、朱沁雪「玄幻小説と黄易のSFファンタジー『月魔』について」、周舒静「日劇『水滸伝』の香港における受容」。 国内外における資料調査はのべ6回で民国期の〈少年〉〈少女〉表象を解明する上で貴重な資料を入手した。①佐々木睦/京都・大阪/2018年6月、②加部勇一郎/2018年8月/東京、③上原かおり/2018年9月/上海・南京、④佐々木睦/2019年2月/大阪、⑤加部勇一郎/2019年3月/東京、⑥佐々木睦/2019年3月/上海。 メンバーによる研究発表は雑誌論文が7点、口頭発表が9、著書が2点(研究発表の項参照)。うち研究代表者・佐々木睦「南洋一郎冒険小説の民国期児童雑誌における受容」は、『少年倶楽部』連載の南洋一郎の三作の冒険小説が中華書局『児童世界』に転載され人気を博していたことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が試みているのは、近代中国における〈少年〉〈少女〉表象の、テキストと図像分析による社会文化史的解明である。問題解決のために以下の3つの下部項目を設定している。①〈少年〉〈少女〉がいかなる歴史・社会的要因から形成され、〈少年〉〈少女〉 らしさがテキスト(雑誌記事、小説等)、図像にどう表象されているか。②〈少年〉〈少女〉たちは性差や役割を自らどう規定し、どのように発信したか。 ③民国期の〈少年〉〈少女〉像はそれ以前の児童像とどう異なるか、また新中国の 〈少年〉〈少女〉像や他国の〈少年〉〈少女〉像とはどのような点で異なるか。以下各項目に関して進捗状況を記す。 ①──佐々木が南洋一郎の受容について研究し発表した(研究会1、国際研究会、『人文学報』)。加部が連環画を用いた研究手法を発表した(研究会2、『キッチュ』2、『連環画研究』8)。②──上原が『少年』、『新少年』の読者について研究し発表した(研究会1、研究会2)。③──加部が新中国の少年像について発表した(招待講演)。佐々木が黎錦暉の児童歌舞における宝塚少女歌劇団の影響について調査し発表した(研究会2)。 国内外の資料調査では有用な資料を入手することができた。二度の公開研究会における各自の研究成果の整理・発表・討論を通じ、問題解決へ前進するとともに、メンバー間での新しい課題の共有もできている。またこの研究会が若手研究者育成の場としても機能していることは評価されよう。研究項目②は、各児童雑誌の投稿欄についての理解が進んだが、性差・役割の自己規定については次年度への課題として持ち越された。一方で、1930年代に黎錦暉の児童歌舞団が宝塚少女歌劇団と接点を持っていたことや、その調査の過程で『時報』紙等が少女表象を伝える媒体であったことが明確になるという望外の収穫を得た。ゆえに「おおむね順調に進展している」という自己評価を下した。
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今後の研究の推進方策 |
一年目にあたる昨年度は民国期児童雑誌に見る〈少年〉〈少女〉表象のテキスト及び図像分析を研究する上での問題点の整理と、アプローチの手法についての提起が行なわれた。問題点として、〈少年〉〈少女〉という性差の自己規定に加え、〈少年〉〈少女〉という言葉自体の定義の困難さが浮き彫りになった。 今年度はこの2つの問題を中心に据え、各自のテーマ、研究対象に対する調査・探求をより深めるとともに、研究対象を拡大し、その周縁に位置するテーマ、すなわち児童向け科学普及雑誌、児童芸術品展覧会のような児童関連行事、児童の消費活動、児童節(子供の日)普及のためのメディア戦略等々も解明すべき課題に組み入れたい。 〈少年〉〈少女〉という性差の自己認識の問題については、『少年』、『新少年』、『玲瓏』等読者ターゲットを絞った雑誌の読者欄の解析が有効なアプローチ手法となり得よう。その一部はすでにメンバー間で行なわれているが、今年度以降さらに強力に推し進めていきたい。上原かおりが中国第二歴史档案館で発見した複数の児童・青少年に関わる全国的なイベントに関する報告書は民国期の〈少年〉〈少女〉形成の解明のための突破口ともなりえよう。また加部勇一郎により提唱された、作家が自らの「童年」を描いた作品からアプローチする手段も新しい発見を生み出すことが予見される。佐々木睦は民国期の少年・少女文化に見られる日本からの影響について、引き続き調査・研究を行なっていく。 プロジェクト全体の活動としては二度の研究会(中国空想メディア研究会)の開催を予定している。今年度も昨年度同様公開形式で行うことにより、外部の研究者との交流を積極的に図っていきたい。 以上の活動を通じて今年度の研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】物品費として600,000円を計上していたが、購入を予定していたマイクロフィルムが取り扱い中止等の理由により入手できず、253,529の使用に止まったことが大きな理由である。 【使用計画】①当初マイクロフィルムで購入を予定していた資料の海外調査時の複写費、②年度内に二回開催を予定している研究会の講演者に対する謝金、③研究成果の中国語による公開のための翻訳アルバイトの雇用。
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