今年度は、本研究プロジェクトの最終成果物として、拙著『台湾女性文学の黎明―描かれる対象から語る主体へ1945-1949』(関西学院大学出版会、2021年)を上梓した。本書は、従来の台湾文学研究ではほぼ顧みられることのなかった「戦後初期(1945~49)」の台湾における台湾女性のライティング(準文学的な営み)を、文学史的に評価することを目的に論じたものである。ここでは、台湾の女性たちの主体的な文芸活動を文献資料から発掘し、従来の文学史においては女性作家不在とされてきた時期を再検討するとともに、台湾文学における女性表象とその書き手の変遷について、以下の点を明らかにした。 (a)台湾新文学の一大テーマであった家父長制下の女性問題は、戦前戦後を通じて主として男性作家により書かれた。台湾女性は日本統治期には植民地台湾の寓言として表象され、また戦後初期には両岸の政治的問題が投射されたりと、しばしば女性自身の現実的な社会的問題から乖離して表象される傾向があったこと。 (b)戦後初期の台湾では、社会的混乱や政治体制の変化より、作家たちが日本語から中国語へと創作言語の転換を迫られるなか、台湾の女性作家は日本時代以上に希少な存在となる。一方、大陸から渡ってきた国民党系の女性解放運動のリーダーらによって、主力新聞に婦女特刊が開設され、彼女らが中国語で台湾女性の生活状況を代弁して綴った口語自由詩が掲載される。これらの詩を検討した時、1950年代に開花する台湾女性文学の揺籃期の作品と見做し得ること。 (c)戦前に日本で生まれ暮らした台湾少女が、戦後直後に書いた日本語小説『漂浪の小羊』(1946)は、書き手の主体意識が反映された「在日」台湾人女性による台湾文学としての可能性を秘めていること。 なお拙著については、2022年2月末日に、所属研究会である中国文芸研究会にて書評の場がもうけられ、今後の研究の進展に関わる重要な指摘が得られた。
|