本研究は、二十世紀前半の中国都市芸能演劇史における越劇の位相について、発展形態とメディア・受容者との相関性という観点に基づき分析することを目睹するものである。その際、新聞記事、図像、劇本・唱本を分析対象とするが、平成30年度は上海図書館近代文献部において、その中でもとりわけ劇本・唱本に重点を置き、閲覧・収集を行った。同図書館においては、関連する同時代の越劇や伝統演劇に関する新聞・雑誌の閲覧・収集も行った。 今年度の調査にあたって収集した劇本・唱本は、演じられる物語や時代により大まかな分類を行い、言語に注意を払いつつ内容的な分析を開始している。それにより、どのような層がこうした劇本を受容し、劇場に足を運ぶことに繋がったかを判断する基準を見出すことが可能であると考えるに至った。この調査を踏まえ、「観るのは“私”――越劇の観客層に関する一考察」(中国モダニズム研究会2018年度第1回研究例会 2018年8月9日 金城学院大学)と題した研究発表を行った。 なお、本年度は予備的な調査によって得られた成果を踏まえ、論文(中国語)「論越劇老生商芳臣――越劇老生之開拓者」(氷上正・山下一夫編著『地方戯曲和皮影戯――日本學者華人戯曲曲藝論文集』183―201頁 台湾・博揚文化 2018年8月)を刊行することができた。また、メディアにより越劇が視覚的・聴覚的にいかに記録され、発信されたかを知るための伝統演劇における先行例として京劇があげられるが、その一例として、越劇でも重視された役柄である旦(女形)の役者に関する記録に注目、自伝の解題である「程硯秋『身上的事――程硯秋自述』」(『中国文芸研究会会報』第440号1-2頁 2018年6月24日)を作成・掲載した。
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