本研究は、二十世紀前半の中国都市芸能演劇史における越劇の位相について、発展形態とメディア・受容者との相関性という観点に基づき分析を行うものである。令和元年度は昨年度に引き続き、上海図書館近代文献部において、劇本・唱本に重点を置き、閲覧・収集を行った。同様に、同図書館においては、関連する同時代の越劇や他の伝統演劇、特に同時代の上海京劇や、越劇と競合関係にあった滬劇、その他江南地域で行われる地方劇に関する新聞・雑誌の閲覧・収集も行った。 令和元年度の調査にあたって収集した劇本・唱本、および新聞雑誌記事等は、昨年度に引き続き、ジャンルや時代背景を踏まえて大まかな分類を行った。同時に、冊子の体裁、内容の構成、収録テクストの言語面に注意を払いつつ、内容的な分析を行っている。それらの分析によってもたらされた成果、およびこれまでの予備的な調査によって得られた知見を踏まえ、令和元年度は論文「越劇の受容者とテクスト―戯考と唱本-」(関西学院大学商学研究会『商学論究』第67号第4号 山本俊正教授記念号、p87-104、2020年3月)を刊行することができた。本論考では、戯考や唱本の出版社および出版形態にも着目し、これらが流通し、受容される環境について重点的に論じた。また、それらの受容者たる観客・読者が、いかなる嗜好のもと、こうした戯考や唱本を「読むテクスト」として日常生活に採り入れていったのかという問題について、関連研究や同時代資料を用い、詳細な検討を行った。
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