研究課題/領域番号 |
18K00367
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
竹谷 悦子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60245933)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | aerial archive / ジョセフィン・ベーカー / 虹の部族 / 地下空間 |
研究実績の概要 |
本研究は、空と核の時代がアフリカ系アメリカ女性作家たちに与えた想像力を解明するものである。様々な歴史家が1940年代に起こったパラダイム・シフトに名称を与えている。例えば、アラン・ヘンリクソンは「航空時代のグローバリム(Air-Age Globalism)」、エドワード・カプランは「航空・原爆時代 (Air-Atomic Age)」などと異なる名前で呼んでいるが、空という空間の重要性への言及では一致している。本研究では、このパラダイム・シフトを記録するアフリカ系アメリカ女性作家たちの作品を「空のアーカイブ(aerial archive)」というタームで呼ぶことにする。「空のアーカイブ」とは、1940年代に顕在化してきた、空から見る・空から描く・空から思考するという文化的実践を記録するテクスト群を意味する。
本年度はアメリカの黒人パフォーミング・アーチストで作家でもあるジョセフィン・ベーカーの国際養子縁組による「虹の部族」の形成とそれを童話として描いた作品La Tribu arc-en-ciel(The Rainbow Tribe)を、空のアーカイブとして考察した。また空という空間に対置して、地下空間が核シェルターとして新たな想像力の場として創出されていったことを明らかにすることができた。
「空のアーカイブ(aerial archive)」という概念については、カリフォルニア大学バークレー校で開催されたAssociation of Japanese Literary Studiesの年次大会で、招待・基調パネリストとして発表する機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、アメリカの黒人パフォーミング・アーチストで作家でもあるジョセフィン・ベーカーの研究を中心に行った。ベーカーと澤田美喜との間で交わされた書簡、ベーカーの自伝Josephine、さらにはベーカーが執筆したフランス語の童話La Tribu arc-en-ciel(The Rainbow Tribe)を読み込むことで、空と核の時代が、ベーカーのキャリアや芸術活動に与えた想像力を解明することができた。とりわけ、従来注目されることがなかった貴重な事実ーーベーカーがパイロット・ライセンスを得ていたこと、複葉機を購入していたこと、ショーの公演パンフレットに女性飛行士としての肖像写真を掲載していたこと等ーーについての資料を収集し、分析を行った。またベーカーの広島訪問・原爆孤児とのかかわりについても明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、アフリカ系アメリカ劇作家で反核・平和運動への貢献でも知られるロレイン・ハンズベリーの研究に着手する予定である。主に、ハンズベリーがフリーダム誌(ポール・ロブソンが創刊したジャーナル)に寄稿した日本映画『ひろしま』(1953年、関川秀雄監督)の映画レビュー、ならびに核戦争後の未来世界を描いた戯曲What Use Are Flowers? (1962年)を分析することにより、空と核の想像力を検証する。この研究成果は現在執筆中の英文の研究書(仮題 Aerial Archives)の第4章としてまとめる予定である。
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