研究実績の概要 |
1.多様な性を描くアフリカの小説作品を精読した。 インターセックスで、男性として育てられたが女性として自認する主人公の成長の物語(Papillon Buki, An Ordinary Wonder,ナイジェリア 2021)は、新規のテーマである。また、トランスジェンダーのAkwaeke Emeziは、ヤングアダルト小説(Pet 2021、Bitter 2022)や自伝(Dear Senthuran 2021)で、性的マイノリティの成長物語を語る。また、難民キャンプを舞台にした姉(パンセクシュアル)弟(トランス気味のホモセクシュアル)の性愛を語る小説(Sulaiman Addonia, Silence is My Mother Tongue,2018,エリトリアとエチオピア)を分析した。論文として来年度発表する。 2.アフリカの性をめぐる言説について論を進めた。 米国の宗教社会学者と文化人類学者が人権の言説を問題化した論文を翻訳した。筆者は、2019年に研究代表者が参加した海外ワークショップの主催者である。地域の歴史や価値観を無視して、人権概念をあまねくあてはめることで、人々の所属の欲求をないがしろにし、結果的に民族主義の隆盛を招いているという議論を紹介した。さらに、訳者解題として、アフリカと日本の性の言説について論じた。アフリカにおける性の運動について、de Vos(2015)は、西洋的な「同愛者」のマスターナラティブを複数化し、「個人として、コミュニティの一員として、兄弟、姉妹、息子、娘、友人として認識されるような政治的、社会的空間を開く」ことが重要だと指摘する。van Zyl(2015)も、欧米では個々の主体を規律の対象にするのにたいし、アフリカでは社会組織の均衡を保つことで秩序を維持するとし、人々の関係性を再定義することが必要だと論じている。
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