研究課題/領域番号 |
18K00375
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
大野 瀬津子 九州工業大学, 教養教育院, 准教授 (50380720)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大学小説 / アメリカ文学 |
研究実績の概要 |
1. 本プロジェクト最初の課題として、1844年から1845年にかけて刊行された大学小説三作―ハリー・ヘーゼル作『ボストンの美女―あるいはケンブリッジのライバル学生たち』(1844)、ティム・ウィッパーウィル作『ネリー・ブラウン―試練、誘惑、そして大学生活の喜び』(1845)、チャールズ・ベイリー作『矯正された学生―ある大学生活の物語』(1844)―をビルドゥングスロマン(教養小説)の類型に照らして考察し、その成果をシドニー大学で開催されたビルドゥングスロマンをテーマとする国際会議(Buildungsroman: Form and Transformations) で口頭発表した。本発表では以下の点を明らかにした。(1)主人公の内的変化の描写をビルドゥングスロマンの一条件とした場合、『ボストンの美女』と『ネリー・ブラウン』では主人公に内的変化が生じず対他的交友関係の重要性が強調されるのに対し、『矯正された学生』では主人公が内的再生を遂げるため、ビルドゥングスロマンと呼びうるのはこの一作のみである。(2)ただし『矯正された学生』で主人公の成長を促す場は、大学ではなく監獄の独房である。よって三作全てにおいて、大学は若者の内省・成長の場としては機能していない。(3)上記のような大学および監獄表象は、19世紀中葉に起こった学生組織運動・刑務所改革運動と連動している。 2.次年度の研究準備として、知識人論、南北戦争と大学や知識人の関わりについての文献を収集し読み進めるとともに、ベンジャミン・ウッド作『ラファイエットの砦―あるいは愛か分離』(1862)、フレデリック・ローリング作『二人の学友』(1871)、スティーヴン・クレイン作『赤い武勲章』(1895)を精読した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、19世紀中葉に刊行された大学小説三作を考察し、国際会議での口頭発表という形で研究成果を公表できた。シドニー大学の学会では、自分の研究成果の公表にとどまらず、自由で活発な議論がなされる国際会議の雰囲気を肌で感じ、世界各国の文学研究者との交流を深めることができ、大いに刺激となった。また、翌年度5月に司会兼発表をする予定の九州アメリカ文学会の大会シンポジウムで知識人と戦争の関わりをテーマにすることが決まったため、大学論や大学小説だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、日本の知識人論に関する文献を広く渉猟し、本研究の裾野を広げることもできた。このように、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を進めるうちに、南北戦争が大学のあり方に大きな影響を及ぼしたことが分かってきた。大学小説が大衆小説の一ジャンルとして隆盛し始めたのがまさに南北戦争期だった点に鑑みても、南北戦争の重要性は明らかである。よって、残りの研究期間の前半2年間は、南北戦争と大学小説の関係を中心に考察を進める。後半2年間は、南北戦争後1870年代頃までに出版された大学小説を中心に検討する。具体的な計画は次の通りである。 1. 2019年度~2020年度:(1)2019年5月12日に琉球大学で開催予定のシンポジウム「<戦前>知識人のWarscape」における口頭発表で、ベンジャミン・ウッドの南北戦争小説『ラファイエットの砦』(1862)とフレデリック・ローリングによる大学小説『二人の学友』(1871)を取り上げる。この発表では、南北戦争を扱った上記二作で描かれるインテリ青年たちの内向性を問題にする。(2)2018年度に口頭発表した『ボストンの美女』、『ネリー・ブラウン』、『矯正された学生』についての考察を一つの論文にまとめて投稿する。(3)南北戦争期に出版された大学小説群や当時の出版事情について調査を進め、必要があればアメリカの大学図書館に調査旅行に行く。(4)南北戦争期の大学小説について論を発展させ、できれば国際会議で口頭発表した後、査読付き論文に投稿する。 2.2021年度~2022年度:(1)教授およびその家族を主人公にした最初の大学小説『教授の妻』(1870)を考察し、口頭発表した後に論文の形で公表する。(2)大学に関するシンポジウムを開催し、口頭発表を通じて本研究全体の成果を公表するとともに、大学研究の専門家たちや一般市民と大学のあり方について議論をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に国際会議で口頭発表するための旅費として500,000円計上していたが、シドニーでの国際会議がオフ・シーズンに開催されたこともあり、予想を遥かに下回る予算で賄うことができた。2019年度はこの予算を活用して、アメリカの大学図書館への調査、もしくは国際学会で発表する。
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