イギリス・ロマン主義時代の古事物愛好主義的言説を──1.古代ブリトン人、2.ドルイド教、ストーンヘンジ、3.ウェールズにおける古詩とバードの伝統、ケルト民族起源論、4.古代神話論、思弁的神話作家、オシアン現象、5.地方誌等──に分類し、その政治的・歴史的・宗教的背景を明らかにする作業を継続した。これらの項目は言うまでもなく密接な相互依存関係にある。この時代に広く読まれた多様な言説を精読し、当時の一筋縄ではいかない複雑な「古代」観の整理を継続した。『エルサレム』に組み込まれることになるブレイク個展作品のひとつ《古代ブリトン人》と題された歴史画をとりあげ、この絵画にブレイクが付した長い作品解説・作品描写を精読し、ブレイク独特の古代ブリトン人観を明らかにした。 古代ブリテン時代のドルイド教とキリスト教の複雑な関係を探るには、古代ブリテンにおけるドルイド教とユダヤ教とキリスト教の起源を絡ませて考察することが必要だ。ブレイクの古代観やブレイクの宗教を論じる際に欠かせないのがスウェーデンの神秘思想家エマヌエル・スヴェーデンボリである。18世紀後半から19世紀半ばにかけて、ヨーロッパのみならず大西洋の両岸において広く受容されたスヴェーデンボリの『天界と地獄』(1778)、『神の摂理に関する天使の智恵』(1790)等のブレイクへの影響とブレイクの宗教観を探り、日本における傑出したスヴェーデンボリ研究者でもあった鈴木大拙との比較宗教的研究を行った。
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