本研究では18世紀英国のバーレスク詩(ホメロスやウェルギリウスなどの古典作品をもじり、崇高な文体で卑近な主題を扱うことによって生まれる諧謔味を主とする作品)を概観するとともに、そこで主題として取り上げられた18世紀英国で流行していたグルメ、スポーツ、ファッションなどについて考察した。いわば「古い革袋に新酒を詰める」という手法である。まずはバーレスクの源流となったフランスやイタリアの作品に触れ、ボワローの『書見台』やヴィーダの『チェスの試合』、タッソーニの『バケツの略奪』について考察した。これらの作品においては、古典叙事詩の戦闘場面を模した、僧侶同士の小競り合いや、ゲームを戦闘に見立てた描写が数多く見られる。 グルメを扱ったテイトやモットーの飲茶詩、フェントンやゲイの飲酒詩、キングの『料理法』などの作品では、英国に紹介された茶の効用や、大陸のワインに対する英国のビールの優位、フランス料理に伍する英国料理の礼賛などが物々しい文体で歌われる。 ファッションを扱った作品は、ポープの『髪の毛略奪』に始まり、ゲイの『扇』、シュートの『ペチコート』、ジェイコブの『スモックの略奪』、ホークスビーの『付け黒子』、ジェニンズの『舞踏術』など、女性のファッションを崇めつつ皮肉るという表現が随所にみられる。 スポーツを扱った作品は叙事詩の戦闘場面をパロディ化したもので、アディソンやサマヴィルの「転球場」、コンカネンの『フットボールの試合』、マシスンの『ゴフ』(ゴルフ)、ホワイトヘッドの『ジムナジアッド』(ボクシング)などがあり、いずれも運動選手が古典の英雄に見立てられているのが特徴である。 最後にミルトンのパロディとして書かれたフィリップスの「光り輝くシリング銀貨」、またスペンサー連を用いて書かれたポープ、エイケンサイド、ウェスト、シェンストン、トムソンの諸作品について論じた。
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