本研究はメインストリームの作品と大衆小説が共有するセンセーショナリズムの言説を探り当てることで19世紀イギリス小説史の正典性をめぐるイデオロギーを解読した。近年の文学史の見直しにおいて、センセーション・ノヴェルの参入は文学史の構造的変革をもたらしたが、その領袖であるWilkie Collinsに比して、M・E・Braddonは当時の社会の階級的侵犯に関わる言説と深く結びつきながら、十分な検証が成されているとは言い難い。正典への格上げを狙った文筆活動や雑誌編集に携わったBraddonを糸口とすることで、センセーショナリズムの作用の広がりを明らかにし、文学史における正典性のイデオロギーを分析した。
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