研究課題/領域番号 |
18K00384
|
研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
庄司 宏子 成蹊大学, 文学部, 教授 (50272472)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 建国期アメリカ文学 / 奴隷制度 / ルイジアナ購入 / レオノーラ・サンセイ |
研究実績の概要 |
2019年2月に編著者として関わった共著本『国民国家と文学』を刊行した。国民国家が要請する公的な歴史形成、歴史記憶、その歴史の忘却や消去という事態に文学はどのように対抗言説として関わるかという観点から「『奴隷舞踊』から『正体のしれない人』へ――ミシェル・クリフ『フリー・エンタープライズ』論」を執筆した。2019年度は成蹊大学の長期研修制度により1年間University of California, Berkeley(アメリカ合衆国カリフォルニア州アラメダ郡バークレー)にvisiting scholarとして滞在した。研修中は、6月にUCバークレーのInternational Houseにおいて、世界各国からこの大学に集うvisiting scholarsが主体となる人文学研究のシンポジウムでMichelle Cliffに関する研究発表を行った。また同じく6月にUC Berkeleyやサンフランシスコ近辺に滞在する日本人研究者が集う研究会でも現代アメリカ文学を代表するColson Whiteheadに関する研究発表を行った。このほか、UCバークレーの図書館が擁する豊富な資料およびデータベースを用いて、研究活動を行った。特に本研究テーマに直結する、18世紀末から19世紀初頭の建国期アメリカ合衆国が国境のセキュリティ上に危機に直面する時代に描かれたLeonora Sansayの小説Laura, by a Lady of Philadelphia (1809)およびThe Zelica, The Creole; A Novel (1820)を電子データで入手できたことは大いなる収穫であった。今後この貴重な資料を読み解いて論文を執筆し、ほとんど論じられることのないこの作家に焦点を当て、建国初期のアメリカ文学研究に一石を投じたく思っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、建国期アメリカ合衆国がカリブ海に位置する仏領植民地サン=ドマング(後のハイチ共和国)との関わりにおいて国民国家形成を行ったことを文学研究の領域で明らかにすることを目指している。サン=ドマングにおける奴隷蜂起はアメリカ南部の奴隷制度を土台とする社会に激震をもたらすが、その時代に書かれたLeonora Sansayの貴重な資料をUCバークレーで入手することができたため、今後研究を有意義な形で進めることができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はLeonora Sansayの知られざる小説Laura, by a Lady of PhiladelphiaおよびZelica, The Creole; A Novelを読み解いて論文を執筆する予定である。カリブ海のフランス領植民地サン=ドマングでの奴隷蜂起、およびナポレオンのサン=ドマングの再植民地化の試みは、建国初期のアメリカ合衆国にとって1803年のLouisia Purchaseと関わる国家の最大関心事であり、その時代に描かれたSansayの小説はこの時代の雰囲気をよく映し出すものである。Sansayの文献は日本国内では入手できない資料であり、今後この貴重な資料を読み解いて論文を執筆する予定である。また、奴隷制度の時代から今日にまで存続する制度的・構造的racismを鋭く問うTa-Nehisi CoatesおよびColson Whiteheadによるメモワールや小説も取り上げ、文学がもつ歴史の再形成、歴史記憶の修正、社会発信や社会是正の可能性について考察したく思っている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は成蹊大学の長期研修制度でUCバークレーに一年間滞在したため、バークレーが擁する膨大なデータベースおよび電子資料の形で資料を入手することが可能であった。このため紙媒体での書籍購入額が予定より少なくなった。翌年度分として請求した助成金とあわせて、研究遂行に必要な書籍や資料の購入に当てる予定である。
|