研究課題/領域番号 |
18K00384
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
庄司 宏子 成蹊大学, 文学部, 教授 (50272472)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / ハイチ革命 / 環大西洋 / Charles Brockden Brown / Leonora Sansay |
研究実績の概要 |
1990年代の冷戦終結以降、文学をめぐる捉え方は、国民文学から世界文学へと変換を遂げつつある。文学研究においてもEmmanuel Wallersteinの世界システム論の影響で、文学を国民国家の枠組みではなく、その時代の世界システムで捉える方向にシフトしている。本研究テーマのひとつであるディアスポラの文学を、アメリカ国内の国民国家の文学を捉える視点から、世界システム論に捉える視点へと重点をおきつつ、両方の視座をもつことが重要だと考えている。16世紀以降の西洋によるアメリカス(南北アメリカ)の植民地化と奴隷制度の歴史と深く関わるアフリカン・ディアスポラ文学は、双方の視点からの位置づけが重要である。18世紀末から19世紀初頭の建国期アメリカ合衆国は、環大西洋的な革命の時代にあって、国境のセキュリティ上に危機に直面していた。この 時代に描かれたアメリカ文学研究で世界システム論的な研究の成果が顕著であるのが、18世紀末から19世紀初頭のアメリカ独立直後から建国期の時代に書かれた文学であり、とりわけCharles Brockden Brownの小説は、当時のアメリカの首都であったPhiladelphiaを舞台に、国内では世界から渡来する移民と辺境に潜む先住民、国外ではアメリカのすぐ南にあるカリブ海の仏領植民地Saint Domingueでの奴隷蜂起から黒人共和国の誕生にいたるハイチ革命、貿易船で持ち込まれるyellow feverのendemic、フランスとの交渉によるルイジアナ購入など国土の拡大など、アメリカの国内外の情勢を色濃く反映している。 本研究は、Charles Brockden Brownと同時代人であり、同じくPhiladelphia出身の女性Leonora Sansayの知られざる小説Laura, by a Lady of Philadelphia (1809)およびThe Zelica, The Creole; A Novel (1820)を世界システム論的な観点から考察したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、上記に記したLeonora Sansayの小説Laura, by a Lady of Philadelphia (1809)およびThe Zelica, The Creole; A Novel (1820)を主たる考察の対象としている。サンセイ自身が1791年から起こった仏領植民地サン=ドマングにおける奴隷反乱を当地に滞在し、その体験を後のアメリカ副大統領 Aaron Burrに書き送ったという希有な体験をしている。帰国後にサンセイが執筆した小説は、カリブ海のサン=ドマングから当時のアメリカの西部最前線のルイジアナへと広がる広大な元フランス領有地に対するアメリカの地政学的野心とそうした時代のなかで生きた個人の経験が記されている。現在紙媒体で入手できないレオノーラ・サンセイの文学をマイクロ資料としてUCバークレーで入手することができたため、今後これを読解し、論文執筆へと進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は新型コロナウイルスの影響で、国内・国外の学会が開催されず、また海外の図書館への資料のリサーチを行うことができなかったため、Webで開催される学会や研究会に参加してアメリカ文学研究の動向や知見を得ることを重視した。また必要な書籍を購入することで研究を遂行しようとした。今年度は、引き続き国内外の学会に参加し、研究上の知識を深めたい。Charles Brockden BrownやLeonora Sansayに関する書籍や研究論文を入手して、上記のSansayの小説を読み、研究成果として論文を発表できるよう、論文執筆に着手したいと思っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は新型コロナウイルスの影響で、国内・国外の学会が開催されず、また海外の図書館への資料のリサーチを行うことができなかったため、予定していた出張を行うことができなかった。今年度は対面での学会が開催され、参加が可能であれば出張を計画したいと思っている。また出張が可能でなければ、引き続きオンラインでの学会に参加し知見を深めるとともに、必要な書籍を購入したり、論文を入手して円滑に研究を進める所存である。
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