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2021 年度 実施状況報告書

シェイクスピアの視覚的表象の研究

研究課題

研究課題/領域番号 18K00390
研究機関早稲田大学

研究代表者

冬木 ひろみ  早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10229106)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2023-03-31
キーワードシェイクスピア / 視覚表象 / マニエリスム / パースペクティヴ / 十二夜
研究実績の概要

今年度は、シェイクスピア劇における視覚表象のあり方やその変化を、可能な限りテクストの言語と当時の絵画的な資料との影響関係を分析し明確にすることを目標とした。その中で、シェイクスピアがエンブレムを想定したと考えられる言葉や場面とは切り分けて、神話やシェイクスピア自身の場面設定に即して、セリフを語ることで観客の目に見えるように情景を描いていると考えられる場面を、主に1600年以降の劇から抽出した。Hamletの中には、特に宗教的(とりわけカトリック的)な視覚表象が見られることはすでに発表済みの論文により示したが、さらに後期の劇のThe Winter’s TaleやThe Tempestだけでなく、PericlesとCymbelineでも宗教(あるいは宗教画)と大いに関わる視覚的な場面・セリフがあることが確認された。こうした分析結果は今後論文として発表する予定である。
また、もう一つ、シェイクスピアの視覚表象を考える上で必須なのがマニエリスムの手法であるが、2021年度はどの表現がマニエリスムと言えるのかを検証する過程で、当時使われていたやや複雑な意味を持つパースペクティヴという用語を用いて、そこに内包されるパラドックスの概念について考察を進めた。その一つの具体例として『十二夜』に関する論文を発表し活字化した。
さらに今年度は、5年に一度開催される国際シェイクスピア学会のパネルで実際の舞台とセリフに関わる発表を行った。これは翻訳と舞台の表象の問題を扱ったものだが、舞台上でどのように視覚化するかをシェイクスピア自身がテクストの言葉の中に一種の指示として入れ込んでいることが検証でき、今後の分析にも役立つものとなった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年は計画していた英国での資料収集ができなかったため、大きな進展まではゆかなかったが、入手できる書籍・資料から考察を進めた。実績報告にも記したように、実際の舞台表象に関わるテーマとしてではあるが、国際シェイクスピア学会のパネルで発表したことを踏まえ、舞台を想定したセリフのあり方、詩の一語一語が重なってゆくことにより作られてゆくイメジャリーの手法について、さらなる検証を進めることができた。
昨年度のAs You Like It からTwelfth Nightへ、さらにHamletに至る視覚的な描き方、言語のレトリックが、絵画的にそのまま描くことから次第に抽象的でパラドックスを孕んだ視点からの描出になっていることが明確になってきた。
もう一点、課題としていたベン・ジョンソンの仮面劇によるシェイクスピアの劇的言語への影響については、今年度はまだ十分には成果を得られなかったため、2022年度にさらなる具体的な分析を進める予定である。

今後の研究の推進方策

研究課題である、劇の執筆過程における絵画的な描出法の変容を分析し明らかにするという目的はかなり進められた。しかしながら、The Winter's Taleなどの後期の劇群におけるセリフによらない視覚だけの舞台表象が現れてくる過程をさらに具体的に明確化してゆくことが必要である。
また、ジェイムズ王の時代になってからのシェイクスピアの筆致は、"Shakespeare and the Idea of Late Writing"でGordon McMullanが指摘するようにかなり変化し、レトリックも複雑になっているが、その変化は絵画的な場面の描き方に関してが圧倒的に大きいと考えられる。つまり、シェイクスピアが初期から中期にかけて、目に見えるような場面を劇のセリフの言葉で描ききっていたことを、後期には少しずつ舞台での役者の動きに委ねるという手法を取るようになっていったのではないかと推測される。今後は言語と舞台上の動きとの関連をシェイクスピアはどのように考えるようになっていったのかをより明確にしてゆきたいと思っている。
進捗状況にも記したように、ベン・ジョンソン/イニゴ・ジョーンズによる仮面劇がシェイクスピアの後期の劇群に与えた影響についても、劇環境の変化と言語表象の変化から分析・実証を進め、論文にまとめる予定である。最終的には本テーマによる論文集の出版を目指しており、2022年中にその準備を進める予定である。

次年度使用額が生じた理由

2021年度はコロナ禍のため、英国の大英図書館などでの資料収集・調査ができなかったため、渡航費として想定していた金額を使用できなかったことによる。2022年度は、英国の図書館にて資料を収集するための旅費に充てる予定。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)

  • [国際共同研究] The University of Birmingham/The Shakespeare Institute(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      The University of Birmingham/The Shakespeare Institute
  • [雑誌論文] パースペクティヴから読む『十二夜』2022

    • 著者名/発表者名
      冬木ひろみ
    • 雑誌名

      早稲田大学大学院文学研究科紀要

      巻: 67 ページ: 139~150

    • オープンアクセス
  • [学会発表] Ninagawa in Stratford: Reconsidering His Productions of King Lear and Titus Andronicus2021

    • 著者名/発表者名
      Hiromi Fuyuki
    • 学会等名
      11th World Shakespeare Congress
    • 国際学会

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公開日: 2022-12-28  

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