本研究では1600年前後および後期のシェイクスピア劇に見られる視覚表象の手法を分析していったが、劇作家の手法はエクフラシス的描写から次第に難解で歪み・ねじれを伴ったマニエリスム的な筆致が多くなってゆくことが確認できた。ただしシェイクスピアの視覚表象の手法の変容は、これまで指摘されてきたベン・ジョンソンの仮面劇の影響だけでなく、それ以上の比重でシェイクスピア自身の筆致が視覚重視へ、つまりセリフのない舞台上の表現を入れ込むことへとシフトしていったことがわかった。さらに後期の劇においては当時の偶像崇拝に対する規制の中でスリリングに「神秘的な見せる場面」を現出させる手法へと繋がってゆくことを示した。
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