本研究は、「ニュー・ドラマトゥルギー」という新しい方法的概念を通じて、アメリカ合衆国発のパフォーマンス研究と大陸ヨーロッパ発の演劇学/演劇研究という相互排除的な学問分野を横断することの学術的意義を問うものである。より具体的には、1960年代以降の現代アメリカ演劇の再歴史化という研究プロジェクトとして本研究を定義し、これまでにない画期的な現代アメリカ演劇史を構築することを目的とする。最終年度の今年度は、昨年度から引き続き、以下の研究を行った。(1) 英語圏と大陸ヨーロッパについて、演劇研究の歴史が、主としてルネッサンス以降、近代を経過するなかで、どのように展開してきたかを、比較対照しつつ、大まかに把捉する作業を継続した。(2)(1)と並行して、パフォーマンス研究及び大陸ヨーロッパ的演劇学/演劇研究がこれまで残してきた学術的業績を振り返る作業を、その理論的展開とその達成を現在的に把握することと、これまで現代演劇について行われてきた研究成果を把握するという二つのテ-マを持って、資料収集を行った。(3)「ニュー・ドラマトゥルギー」という近年脚光を浴びている方法的概念について、関連する資料収集・研究分析を行うだけでなく、そうした研究が登場してきた歴史的、社会的、文化的文脈を踏まえ、英語圏と大陸ヨーロッパ圏における演劇研究をめぐる同時代の批評言説を比較検討するための、資料収集も継続した。本年度についてはまた、欧米圏ではコロナ禍が終わり、演劇研究・実践ともに、原点に戻って、今後の展開を考える動きが加速し、本研究テーマの妥当性そのものが問われることになった。スイス・バーゼルの国際演劇祭に参加した結果、得た感触である。研究実績としては、コロナ禍のために、「ニュー・ドラマトゥルギー論」以上の重要性をもつようになった「演劇の公共圏」というテーマに沿った批評エッセイが多くなった。
|