研究実績の概要 |
本研究の目的は、19世紀アメリカに広く受け入れられていた自然史がソローやポーなどに見られる越境的想像力にどのように影響を与えていたかを包括的に考察することである。令和2年度は、同時代に読者に広く受け入れられていた海洋文学への自然史研究の影響に着目して研究を行った。ジェイソン・バーガーも指摘するように海洋文学は、19世紀に急速に発展しつつあったグローバル経済システムが喚起する欲望と新しい経済的文化的経験への反応として読者に受け入れられたが、この海洋文学にはナショナリズムを形成する端緒となると同時に、国の枠組みを越境した知的ネットワーク、読者ネットワークを構築していた自然史研究の影響が見られる。この研究で得られた気付きを基に、日本アメリカ文学会中部支部ではナサニエル・ホーソーンの作品を分析し、口頭発表を行った。また巽孝之監修『アメリカ文学と大統領―文学史と文化史』(南雲堂)に論文を寄稿した。今年度は、オンラインで開催されていた日本アメリカ文学会中部支部、米国学会のModern Language Association, North Eastern Modern Language Associationなどに参加、関連テーマなどについて研究者と討議し、知見を深めることができた。 研究期間を通じての研究成果として明らかになったのは、19世紀アメリカにおける自然史研究の多様性であり、その歴史的背景がソローやポーの作品に影響を与えていることだった。今後の研究においては、この研究成果をもとに、さらに自然史とアメリカ文学の関係について探求していきたいと思う。
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