本研究は、アメリカにおける混血人種の研究史を踏まえた上で、アジア系、エスニックおよびマイノリティのアメリカ演劇の再定義を行うことを目的とした。特にアメラジアンという呼称を劇作家として広く知らしめたVelina Hasu Houston(1957- )の戯曲研究を中心に、アジア系、アフリカ系の戯曲上演を中心とする劇場、さらに、いわゆる「メインストリーム」の劇場におけるアメラジアンの劇作家の戯曲の受容状況について調査を進めた。 2000年以降のHoustonの戯曲にみられる母と娘の連帯と女性の自立、父親の不在などの要素は、Tennessee Williams (1911-83) のThe Glass Menagerie (1945) などにも顕著にみられ、アメリカ演劇の伝統を踏襲していると言えるが、自らの人種性をポジティヴに捉えることによって女性同士の連帯感と自立心を強め、男性「不在」の世界を敢えて選択するという点に独自性があり、混血に対する人種的偏見への批判と共に、ジェンダー間の偏見についても批判的眼差しを内包することを本研究によって明らかにした。 さらに本研究においては、Houstonが描く「場所」と人種の問題について考察を進めた。彼女の戯曲 Asa ga Kimashita は,アメリカ移住前の日本人家族が描かれ、American DreamsとTeaではアメリカに住む戦争花嫁が主人公として設定されている。A Spot of Botherは舞台がロンドンに設定されており、白人と東インド系の混血女性が主人公であるが、イギリスは、母娘の連帯が強調される点で歴史性と連続性の象徴である一方、アメリカは、男性の逃亡と家族からの離脱という意味において断続性を表す。以上のような観点から本研究では、Houstonが描くアメリカ、イギリス、日本という「場所」と人種性の関連を探った。
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