研究課題/領域番号 |
18K00401
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
河原 真也 西南学院大学, 文学部, 教授 (80454924)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アイルランド / 移民 / ジェイムズ・ジョイス |
研究実績の概要 |
当該年度は、当初の予定通り、20世紀のアイルランド人作家による小説に描かれた過去と現在の「移民」像を読み解き、それらを比較することを主眼としながら、作品の舞台となった時期のアイルランドにおける歴史的、社会的状況を検証することを主な作業とした。特に重きを置いたのは、これまで主たる研究対象としてきたジェイムズ・ジョイスの作品の舞台となったダブリンと、彼がそこで青年期を過ごした時期(1880年代から1904年頃まで)である。そのうえで20世紀のアイルランドにおける中等教育事情と階級との関連を探り、ジョイスとリンクさせる形で考察を加え、2018年の10月に開催された日本英文学会中四国支部において、ジョイスの『若き日の芸術家の肖像』(1916)を扱った研究発表を行うに至った。 また歴史的検証を遂行する際に、20世紀初頭のアイルランドにおける教育事情と階級との関わりについて新たな知見を得たこともあり、前述した研究発表を基に、新たに20世紀初頭のアイルランドにおける「移民」事情という視点を加えて、論考を出した。それが共編著『ジョイスへの扉:『若き日の芸術家の肖像』を開く十二の鍵』(英宝社、2020)という形で結実した。 ジョイスに加え、George Mooreについても、聖職者を扱った小説についての研究と並行する形で、移民を描いたいくつかの短編についての論考の発表が大詰めにきている。Moore作品に描かれた聖職者による移民に対する認識を検証することは、当時の作家の移民像の描写に大いに影響していたことが背景としてあるのだが、Moore以外の作家を対象に加え、最終的に活字化されつつあることを付記しておく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に予定していた作業を行ううえで、勤務校において年度前半に半年間の研究休暇を得られたことは研究を遂行していくうえで、非常に有益であった。19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアイルランド史の基本文献を、短期間ではあるが、滞在したニューヨークとダブリンにおいて整理できたことも、スタートダッシュができた大きな要因であろう。さらには普段参加しにくい、6月前後に欧州で開催される学会へ参加することが可能となり、そこで得られたデータベースについての情報や最新の研究事情をもとに、本研究を遂行していくうえでの新たな視点を得られるきっかけになったように思う。 他方で、2018年度後半は勤務校での通常業務に復帰したこともあり、前期よりも研究を遂行するペースが落ちたことは否定できない。とはいえ、研究初年度については、現時点ではおおむね順調な進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、19世紀の半ばに起こり、主に北米へ多くの移民を送るきっかけとなった「じゃがいも大飢饉」、20世紀初頭のアイルランド独立運動、独立後疲弊したアイルランド経済、北アイルランド紛争といった歴史的事件を、アイルランド史に関する文献を用いて検証を進めていく。その際にここ5年以内に発刊されたアイルランド史関連の複数の文献を利用することで、最新の研究視点を確保することに努めたい。あえて新しい文献を研究対象とするのは、アイルランド文学研究においてみられる主観的な歴史理解を排除することが狙いだからである。 並行して、20世紀初頭のアイルランド国内において「移民」というものに対する認識がどのように変化していったのか精査する。その際に、_Freeman's Journal_をはじめとした、アイルランドで発刊された定期刊行物や、University College DublinのDigital Libraryにある一次資料を利用しながら、当時の移民についての言説を掘り起こすつもりである。
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