研究課題/領域番号 |
18K00404
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
堀 智弘 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (10634719)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ジャクソニアン・デモクラシー / 世俗化 / 理神論 / 偶然性 / 奴隷体験記 |
研究実績の概要 |
黒人研究学会全国大会のフレデリック・ダグラス生誕200周年記念シンポジウム(2018年6月23日、東洋大学)にパネリストとして招かれ、「理性主義と自己信頼ー十九世紀アメリカの理神論的文化におけるフレデリック・ダグラス」と題する発表を行った。自伝への度重なる加筆修正、そして彼の思想を貫く理性主義にもかかわらず、なぜダグラスはSandy Jenkinsから怪しげなお守りをもらうというエピソードに重要性を見出し続けたのかという問題を、啓蒙主義時代から十九世紀半ばまで継続していた理神論的文化の文脈の中に位置付けて考察した。これにより、特にダグラスの第二自伝My Bondage and My Freedomにおける「自然神学」的なプロジェクトの中心性が明らかになったとともに、ダグラスと同時代の代表的知識人Ralph Waldo Emersonの思想的相関性を今後解明していくための方向性も見出すことができた。 本研究に関連する全般的な問題に関して、「蘇生のおぞましきドラマー「ベレニス」、「モレラ」、「ライジーア」におけるポーの化学的創作手法」と題する論文を執筆、発表した(『英文學研究 支部統合号』11巻、63-70頁)。ジャクソン期のアメリカの代表的作家エドガー・アラン・ポーがその創作手法を確立していく時期の代表的な短編作品群になぜ死者の蘇生という主題が頻出するのかという問題について、十九世紀に隆盛した死の文化と作者による化学的な創作手法の模索という点から考察し、ジャクソニアン・デモクラシー期のアメリカ社会の世俗化が同時代の文学形式の変容にどのように影響を与えたのかについてより広範な視座を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究が検証しようとしている「エマソンからダグラスに至る理神論的思考の系譜」については、本年度の研究活動を通してある程度方向性を見出すことができた。特に、十八世紀から十九世紀前半までの聖書における「奇跡」をめぐる議論の文脈の中にダグラスの記述を位置付けるという点に関しては、扱うべき素材がある程度集まりつつあり、その精査も進行中である。また、「偶然性やリスクについての確率論的思考の展開」については、本年度は特にエドガー・アラン・ポーの初期作品を検証して、ポーの創作手法の発展の中に偶発性を重視する思考方法を認めた。 本研究のもう一つの焦点である「アフリカ系アメリカ人のテキスト群における世俗的思考の浸透と拡散」の検証に関しては、特にダグラスについて分析を深めることができ、またダグラスとHenry Bibbの奴隷体験記(1849年)の対話的関係について理解を深めることができたが、その一方で、それ以外の奴隷体験記については当初の予定ほどには検証を進めることができなかった。 また、本年度は米国での資料収集を行う予定であったが、校務等が忙しく、実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的な研究方針に大きな変更はない。 2年目である令和元年度は、1年目から進めてきたダグラスのMy Bondage and My Freedomにおける自然神学的プロジェクトの中心性についての考察を英語論文としてまとめる予定である。夏季に渡米し、資料収集と兼ねて、この論文の内容について、アフリカ系アメリカ人文学研究者であるジョージア大学のJohn W. Lowe教授と意見交換を行う。 並行して、「アフリカ系アメリカ人のテキスト群における世俗的思考の浸透と拡散」という点について、様々な奴隷体験記の検証・分析を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、当該年度に米国での資料収集を予定していたが、校務等で実施できる期間がなかった。次年度は夏季に渡米し、意見交換と資料収集・調査を実施する予定である。
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