本研究の最終年度に予定していた米国での研究成果発表は、世界的な感染症の拡大もあり実施できなかった。また、本研究が当初重点的に検証を行うとしていた2点のうち、エマソンからダグラスに至る理神論的思考の系譜という点については、研究の方向性の修正もあり、本年度は十分に研究を進めることができなかった。2つ目の点、アフリカ系アメリカ人のテキスト群における世俗的思考の浸透と拡散については、当初予定していたよりも長期的な視野でこの問題を検証する必要性が明確になり、二十世紀に入って以降の時代を扱った研究書も本年度は数多く購入し、問題の精査を行なった。そのなかで本年度最も注力したのが、モダニズム/ハーレム・ルネサンス期の作家Claude McKayの小説Banjo (1929)の近代性を検証した英語論文の執筆である。アフリカ系アメリカ人の小説の発展において、McKayの作品はこれまであまり注目されてこなかったが、近年、新たな草稿が発見され出版されるなど、再評価が行われつつある。McKayの第二小説Banjoは、フランスのマルセイユを舞台として様々な出自のアフリカ系の人々が登場人物となっており、ハーレム・ルネサンスの国家的な枠組みのなかでは評価の難しい作品であるが、本論文は国際的なモダニズムとの関連性の点から本作品を評価しようとするものであり、アフリカ系アメリカ人小説形式の世俗化という問題にもこれは大いに関連する。本論文を完成し、米国の学会誌に投稿し、掲載が決定した。
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