研究課題/領域番号 |
18K00407
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
河田 英介 国士舘大学, 政経学部, 講師 (10756266)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | モダニズム / 修辞芸術 / 文体 / 美学 / ジェンダー / セクシュアリティ / アーネスト・ヘミングウェイ / 短編研究 |
研究実績の概要 |
経緯から説明すれば、初年度2018年においては、ヘミングウェイの1930年代の短編の代表的な二作品 “The Snows of Kilimanjaro” 及び “A Clean Well-lighted Place” を一つの最高到達点とした時に可視化されてくる特異な創作技法の1920年代のそれとの差異、及び進化形態を考察し、その夏にはパリで開催された国際会議XVIII The Biennial International Hemingway Conferenceの英語による口頭発表において作家の到達した修辞芸術性に関して発表した。採択課題との関連で、ヘミングウェイの長編小説『日はまた昇る』に対してそれを適用し、同年の秋には国内の専門学会である日本ヘミングウェイ協会の全国大会第29回におけるシンポジウム『ヘミングウェイと女性表象―「悪女」、「誘う女」、「病む女」を再読する』にて、本課題と深く関連する修辞芸術性とジェンダーがどのように長編リアリズムに反映されるのかについて発表をした。 ここで煎られた仮説を元に、2019年度においては、作家が目指した修辞芸術が目指す美学の発展経路をさらに分節化した。本年は前年度に得られた仮説をより広範囲に公表した。国内では共著として出版した『ヘミングウェイで学ぶ英文法』(アスク出版2019)において、採択課題で検証された文体美学を土台に、その他六つの短編小説に応用し、そこから作家の文体美学が如何にジェンダーやセクシュアリティといった問題系と関連しているかの読解を示した。研究成果をさらに広く届けるために、イラン国立マザンダラン大学で開催されたThe First English and Literature and ELT Conferenceにおいて、本課題で得られた成果を基調講演として90分の貴重講演を行った。現在は、ここで発展させた仮説を含んだ二つの論文二つを一つは海外学会誌に投稿し、もう一つは国内専門誌に投稿することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で既に触れた内容だが、総じて言えば2019年度は、2018年において構築した基礎的な仮説をアウトプットして世に問い、その仮説の強度・耐性を試す文学的実験を行った。本年拙者が別件プロジェクトにおいて出版した共著書籍においては、本採択課題の研究から得られた仮説が少なからず成果として提出されている。そこにおいては、ヘミングウェイの他の六つの短編 "Cat in the Rain", "A Day's Wait", "The Sea Change," "Hills Like White Elephants," "A Simple Enquiry," "The Light of the World" に対して、その修辞技法を基軸とする視点から、それら作品において隠蔽されるジェンダーとセクシュアリティの問題系をあらためて問うことができた。また、イラン国立マザンダラン大学における基調講演においては、その共著においても扱った "Cat in the Rain" において見出される本課題によって構築された仮説を土台に、これまで男性中心主義な作家として考えられてきたヘミングウェイが、修辞芸術性を通して、如何に見事に男性中心主義の視線を捕捉し、特異な文体美学を通して効果的に読み手にジェンダーの問題を示しているのかを講説した。書籍出版と海外発表を通して、さらにヘミングウェイの修辞芸術性の深みを分節化することができ、本課題における仮説の耐久性テストとしては、十分な成果を獲得したと言えるだろう。実際に、発表原稿を投稿する競争的なイランにおける英語圏文学に関する国際学会においては、本課題で得られた仮説を中心に作られた研究成果が認められ "The International Scholar" 賞を授与された。これは本採択課題で得られた仮説が強度をもっている証左を示すはずである。「業績数」としては決して満足していないが、「質」としては、著書籍と海外学会において獲得できた成果を考えると、現在の進捗状況は概ね順調と言えるはずである。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究の推進方策としては、はじめに2018年度における国内・海外発表の研究成果をあらためて改稿・発展させながら、2019年度における共著と海外発表で発展させた仮説を二つの英語論文にまとめた上で、海外専門誌(既に一本は投稿済み)に投稿し、さらに国内大手学会誌に一本投稿し、さらに既に決定しているXIX Biennial International Hemingway Conference in Wyoming/Montana において最終成果としての研究発表を行い最終年度の成果として修める予定である。2020年度に新たに取り組むのは、ヘミングウェイの1925年から1936年までの短編小説に見られる修辞芸術性の巨視的な発展の一連の流れ(I. 1925~1927、II.1930~1933、III.1936-1939)の時代ブロック毎の発展形態を大局的に含む、短編小説において作家が到達した最高到達点としての審美性を究明することである。言い換えれば、その目標地点に向かう作家の審美性の発展を測定しながら、その水面下で複雑に絡みある各作品における個々の主題との力学関係を明らかしながら、どのようにしてヘミングウェイが“The Snows of Kilimanjaro” 及び “A Clean Well-lighted Place”という頂点にいたったのか明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の2018年に予定していたPoetics and Liguistics Associationにおける学会発表予定が同年のIVIII Biennial International Hemingway Conference と開催が重なり、予定していた500000円の予算が、未使用となっている。これは最終年度に国際学会・海外調査において使用される予定である。
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