研究課題/領域番号 |
18K00409
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
アルヴィ なほ子 (宮本なほ子) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20313174)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フランケンシュタイン / シェリー / プロメテウス / コウルリッジ / 会話詩 / イギリス・ロマン主義 |
研究実績の概要 |
2020年度は、昨年に引き続き、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』 と21世紀の科学との関係を検討する中で、科学者が神の領域とされている研究に踏み込むことと倫理的な問題との関係を、プロメテウスという人間以上の存在としての科学者、人間以上にならないという選択をすることを選ぶ科学者という観点から考察を進めた。その成果を「『フランケンシュタイン』のもう一人のプロメテウス――ウォルトンと「現代のプロメテウス」の人間化――」という論文として公刊した。また、『フランケンシュタイン』において、人文知、文学、他者への共感の育み方がどのようになされるかについて、「他者」がどのように表象されているか、他者の言葉としての外国語の理解、他者へ接近するための国境を越える旅がどのように扱われているかを「言葉の力と科学の力 ――『フランケンシュタイン』200周年に考えること」という論文にまとめ、論文集『知のフィールドガイド 異なる声に耳を澄ませる』に収録された。 2020年度は、全く思がけないCOVID-19のパンデミックという事態が世界中を覆ったこともあり、その中で、文学と科学との関係性を考えることになった。『フランケンシュタイン』の主人公である「現代のプロメテウス」ヴィクター・フランケンシュタインは、研究に没頭する中で「孤独」に陥り、自分の研究が創り出した恐ろしい怪物に向き合うことも、そのために自分も含めて周囲の人々の降りかかる厄災を抑止することができなかった。この「孤独」の問題を、「他者(ストレンジャー)」との関係性を中心に抒情詩の社会性と結びつけて、コウルリッジの会話詩を分析し、「『風に助けられることなく』――会話詩の静かな革命」という論文にまとめ、論文集『コウルリッジのロマン主義: その詩学・哲学・宗教・科学』に収録された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度から引き続いて研究の成果を出すことはできたが、新型コロナ感染症の拡大のため、研究をさらに進捗させるために必要な海外での調査、学会発表、また学会での研究者との議論などができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
メアリ・シェリーの『最後の人間』、パーシィ・ビッシュ・シェリーの詩のテクスト、バイロンや同時代のイギリス・ロマン主義の著作者たちの文学と科学を交錯させるテクストの検討をさらに進める。21世紀の現代科学と人文知の関係を比較しながら、「病気」に覆われた世界から「健康」へと向かうプロメテウス的なパーシィ・ビッシュ・シェリーの展望と人類が絶滅の淵に立つメアリ・シェリーの『最後の人間』の21世紀観を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナの感染拡大のために海外渡航が不可能な状況になった。海外での調査、学会発表などのために予定していた旅費を使わなかったため、次年度使用額が生じた。今年度は、海外渡航ができる状況になれば海外での調査等を再開したい。それが難しい場合は、書籍の購入をより増やすこと、オンラインでの学会参加が可能な場合は参加すること等を状況に応じて行うことによって、海外調査、海外の学会での発表や学問的交流を行うことを補う計画である。
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