最終年度は、コウルリッジのテクストと現代の新型コロナ感染症下での詩人たちの取り組みを広く研究し、イギリス・ロマン派第一世代のコウルリッジの『老水夫行(The Ancient Mariner)』の改訂の経緯から、「他者」へ向ける想像力、「他者」への共感のあり方について現代に通じる先駆的な取り組みを跡付けた。18世紀後半にスコットランド啓蒙主義の中で「共感」の重要性が認識された後、文学テクストがいち早く、「想像力」と「共感」をグローバリゼーションの初期の形態が生まれる中で作動させた。コウルリッジは人文学諸分野、科学を連携させ、一般読者が読む文学テクストにの中に重層的なレイヤーとして組み込んだ。『老水夫行』の初版(1798)と散文のマージナルグロスがついた1816年の改訂版を比較検討し、現代の新型コロナウィルス感染症の状況の下での人々の「孤独」と「孤立」の問題との共通点、コウルリッジの先駆的な洞察と取り組み、多くの分野を横断し、重層化しつつ文学テクストに組み込む方法について発表した。 研究期間全体としては、『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』(1818)の刊行200年記念と合わせ、本研究では、『フランケンシュタイン』を詩学と科学の新たな神話の誕生として、イギリス・ロマン主義の文学と科学の関係、共感と文学的想像力の新たな可能性を追求することから始め、2019年度、2022年度でその枠組みを拡大した。最終年度では『フランケンシュタイン』に大きな影響を与えたコウルリッジの『老水夫行』を「他者」との関係の点から読み直し、新しい現代的意義を示した。 研究期間全体を通して、本研究は、文学的想像力と共感が、人文学と科学が共同/協働してグローバリゼーションやコロニアリズムが引き起こす問題に対処する時に大きな力を発揮することを示すという目的を果たし得た。
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