研究課題/領域番号 |
18K00410
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
大田 信良 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (90233139)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポスト帝国 / イングリッシュ・スタディーズ / 福原麟太郎 / 読むこと/書くこと / アール・デコ / 20世紀文化空間 / グローバル・シティズン / 消費の帝国アメリカ |
研究実績の概要 |
①冷戦期の米国文学・文化をグローバルに再解釈するための媒介・翻訳空間としてのポスト帝国日本における英国文学・文化については、シンポジウム「アール・デコ時代の英国モダニズム」をもとにした特集を企画し、「はじめに――モダニティ論以降のポストモダニズム、あるいは、『大衆ユートピアの夢』を『ポスト冷戦』の現在において再考するために」『ヴァージニア・ウルフ研究』36 (2019)を出版した。さらに、メンバーを追加して、あらたに「20世紀文化空間のリ・デザイン」という研究プロジェクトを立ち上げ、3回程度の研究会をもち、大道千穂青山学院大学教授と共著で「『あるびよんー英文化綜合誌』から再考するヘルス・ケアと(英語)教育」という原稿を執筆し、福原麟太郎の英語教育論を19世紀から21世紀の英国の教育と比較・解釈した。2020年論集の一部として出版予定。
②ポスト冷戦期の覇権あるいはマネーとパワーの移動に端を発する歴史的変動・再編のマッピングと歴史化については、H. G. Wells The History of Mr Polly を取り上げ、英国ショップ・オーナーの「居場所」の問題を、消費の帝国アメリカの勃興という歴史的コンテクストに位置づけ、グローバル・シティズンシップという夢の表象を読み取る論文を執筆した。2020年論集の一部として出版予定。
③新たなイングリッシュ・スタディーズあるいは現在の英語教育から見直す「英文学」と20世紀の英語教育については、シンポジウム「ポール・ド・マンを書く ー言語・歴史・ロマン主義」専修大学現代文化研究会第3回研究会にコメンテーターとして参加し、読むことと書くこととの不可分性を問題化することが、新たなイングリッシュ・スタディーズにとってだけでなく英語教育にとっても重要であることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①冷戦期の米国文学・文化をグローバルに再解釈するための媒介・翻訳空間としてのポスト帝国日本における英国文学・文化については、福原麟太郎の英文学・ モダニズム受容をターゲットとして取り上げたのに続いて、19世紀から21世紀にいたる英国における教育のコンテクストに位置づける研究・調査を進め、予定された出版に向けて論文執筆をおこなった。
②ポスト冷戦期の覇権あるいはマネーとパワーの移動に端を発する歴史的変動・再編のマッピングと歴史化については、資本主義世界のパワーとマネーの歴史的展開・転回における英国から米国への移行と21世紀に出現しつつある移行との関係を比較・解釈するために、H. G. Wellsの教養小説としてのみ解釈されてきたテクストをグローバル・シティズンシップの夢によって解釈することによって再考する論文を、予定された論集に向けて、執筆し寄稿した。
③新たなイングリッシュ・スタディーズあるいは現在の英語教育から見直す「英文学」と20世紀の英語教育については、シンポジウム「ポール・ド・マンを書く ー言語・歴史・ロマン主義」において、読むことと書くこととの不可分性を問題化することが、新たなイングリッシュ・スタディーズにとってだけでなく、21世紀現在の英語教育にとっても、重要であることを論じたのと同時に、これをさらに①における福原麟太郎の英語教育論の調査・研究とも連動させることにより、理論的・実践的に深化・拡大を進めることができた。 ただし、今年度計画していた英国出張特にウォリック大学での調査とインタヴューに関しては、教職大学院発足にともなうスケジュール調整の不調、ならびに、年度末におけるコロナ菌拡大による海外渡航の困難によって、実施できなかったため、英国と日本との英語教育特にH・E・パーマー/語学研究所に関する調査が予定より遅れ気味になったしまった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、収集済みの『あるびよん―英文化綜合誌』(1949-60、全48号)についての調査・精読による解釈をさらに進めることにより、ポスト帝国日本の英文学における福原麟太郎の仕事をグローバルに歴史化する作業を、「20世紀文化空間のリ・デザイン」という研究プロジェクトにおいて集団的に進める。次に、中国と米国の間を移動しながら米国の「理論」を紹介・翻訳する仕事をおこなってきたJ. Hillis Millerについての解釈・論文執筆をおこなう、と同時に、第2次大戦後の英国の文学・文化のインドからシンガポールを経て中国・インドネシア・フィリピンに企図された政策を、明治期に移植されたスコットランドの文化・テクノロジーの移動も視野に入れながら、ポスト帝国日本の空間においてもみられた英国と米国との単純な覇権の移行とはいえない複雑な関係を再解釈する仕事を、「20世紀文化空間のリ・デザイン」の次の研究・出版企画として進める。そのなかに、Arundhati Royの文学・政治テクストについての研究、Fredric JamesonのAllegory and Ideology(2019)の再評価を組み込む予定である。 最後に、日本の英語教育を、英語教育史の観点からだけでなく、日本を含む現代の大衆化された高等教育のグローバル化の問題によっても再考し、英国への渡航と出張が可能な状況を待って、英国ウォリック大学のDr Richard Smith(Reader in English Language Teaching & Applied Linguistics )や Peter Brown氏とコンタクトへのインタヴューを含むリサーチをおこないたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度英国出張特にウォリック大学での調査とインタヴューを計画していたが、教職大学院発足にともなうスケジュール調整の不調、ならびに、年度末におけるコロナ菌拡大による海外渡航の困難によって、実施できなかったため、英国と日本との英語教育特にH・E・パーマー/語学研究所に関する調査については、予定より遅れることになった。
次年度は、コロナ菌の状況にもよるが、英国への渡航と出張が可能になった時点で、 今年度未使用額を含む予算で、使用する計画である。
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