研究期間全体を通して、エマソンは18世紀以降の先端的自然科学が明らかにした自然の法や秩序に基づく、進化論的な自然観からキリスト教に囚われない革新的な人間の精神性を探求し、それを広く伝えようとしたことを、初期の『自然』(1836)とエマソンがパブリック・インテレクチュアルとしての地位を確立する中期の『代表的人物』(1850)の表現を中心に検証し、これまでエマソン研究であまり論じられることのなかった『植物変態論』の著者であるゲーテの重要性を認めることで明らかにした。 ダーウィンの『種の起源』(1859)も論争を引き起こしたように、エマソンの自然観は主にキリスト教徒を対象とするパブリック・インテレクチュアルの語るテーマとしては不向きなものであり、伝統的なキリスト教やプラトニズムと受け取れる表現を便宜上使うために、曖昧な表現に見えがちであるが、エマソンの真価はプラトン主義を現代科学の観点から更新したことにある。2022年度はエマソンの『代表的人物』はそのような思考の発展の過程を示したものであることを、9月にアメリカで2人の共同研究者サラ・ワイダー(コルゲート大学名誉教授)、アニタ・パターソン(ボストン大学教授)と行った研究会で議論し、その議論を3人それぞれの観点から発展させ、パブリック・インテレクチュアルとしてエマソンの立場にふさわしいテーマ、「代表」と「表現」とが表裏をなす思想の深さを示すワークショップ、 "Emerson's Representative Men”を2023年1月8日に大阪で開催し、活発な議論が展開された。エマソンは『代表的人物』の一人、スウェーデンボルグの更新者としてゲーテを捉えていたと考える研究代表者は、スウェーデンボルグのエマソンにとっての意味を再考し、論じられることの少ないエマソンの詩がスウェーデンボルグ評であることを示す論文を発表した。
|