研究課題/領域番号 |
18K00417
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
遠田 勝 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (60148484)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラフカディオ・ハーン / 小泉八雲 / 「雪女」 / 木下順二 / 『夕鶴』 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究実施計画にそって、ひとつの講演を実施し、またひとつの論文を執筆した。 まず講演は、平成31年度懐徳堂春季講座として、「外国人が語る日本の怪―小泉八雲『怪談』の世界―」を令和元年6月28日、大阪大学中之島センターおいて実施した。 この講演においては、ハーンの創作である「雪女」の独自性と魅力が、日本の地方の土着の民話として語り直され、それがまた、現代の映画やアニメにどのように伝えられたかを考察しながら、それとは別系統の大阪の伝説である信太の森の「葛の葉物語」および木下順二の『夕鶴』により国民的物語となった「鶴女房」の説話との比較から、「雪女」の特長を考えた。これら類話との比較により「雪女」の根底にある西洋文学の伝統と、幼年期に生き別れになった母親への思いを重ね合わせることで、ハーンの「雪女」がもつ、重層的で多様な意味を読み解いた。そして、この「雪女」という、二十世紀はじめに創作された新時代の「怪」を、この春講座全体のテーマである「日本の『怪』」のなかに、どうのように位置づけ、どのように評価したらいいのかを考えた。 また学術論文としては、「「雪女」から『夕鶴』へ-近代民話におけるラフカディオ・ハーンと木下順二の役割」(神戸大学近代発行会『近代』、第一二一号、二〇二〇年六月(刊行予定)、一-二二ページ)を執筆した。日本における「民話劇」の創始者であり、民話劇『夕鶴』の執筆者である木下順二とハーンの関係について、伝記的考証ではなく、「雪女」と『夕鶴』の比較論・作品論によって解明を試みた論文である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、「民話」が第二次世界大戦前後から、地方の口承文芸からナショナルな出版物へ、そして国語教科書、舞台、テレビ・アニメ童話、映画へと、ジャンルやメディアを超えて拡大発展するなかで、近代西洋ナラティブと異国情緒を語るオリエンタリズムが、どのような影響を与えていたか多面的に考察しようというものである。 本年度は、この構想にそって、とくに「雪女」の近代演劇と日本の伝統演劇である歌舞伎への展開を考察した。とりわけ、従来、考察されてこなかった、ラフカディオ・ハーンと木下順二の関係を伝記のみならず、作品論で比較することで、近代西洋ナラティブが、戦後日本の民話劇と歌舞伎に浸透するさまを具体的作品を通して考察した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度をむかえるにあたり、これまで積み重ねてきた考察と論文をまとめて、単行本を出版することを目標とする。具体的には、木下順二の登場をもってはじまる「民話」の異常ともいえる流行の中で、近代への批判的視座や、過去や辺境への憧憬を、エキゾチックな方言と仕草・衣装でくるみこむ、オリエンタリズム的「語り」の技法がさまざまな民話のメディア展開のなかで採用されていくさまを、より多くの事例で検証していく。それによって、明治のジャパノロジストらが創始した「日本」を語るオリエンタリズム的語りが、民話という近代日本の「郷土」や「昔」を語る重要な文学の一部となることを検証し、わたしたちが国土・郷土へ寄せる「愛着」と「物語」との深いつながりを解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度3月に予定していた出張が実施不能となっため。本年度、出張可能となり次第、実施する。
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