研究課題/領域番号 |
18K00418
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
木原 誠 佐賀大学, 教育学部, 教授 (00295031)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水辺の巡礼ネットワーク / ヴァイキング / アイリッシュ・ルネサンス / W. B. イェイツ / アジール / 免疫システム |
研究実績の概要 |
神話と幻想の霧に包まれ「暗黒の時代」と呼ばれるAD6~8世紀のアイルランドが各々独自の修道院・教育制度をもつ学術都市の 集合体であり、メロリング・カロリング朝ヨーロッパの先鋭的知の発信地だったことが歴史・考古学の観点から明らかになりつ つある。この知見はアイリッシュ・ルネサンス研究の死角を突く問い、すなわちこの運動は何を規範とし、いかなる過去の文化 ・文芸を復権しようとしたのかという根本的課題に応えるものである。復興の牽引者W.B.イェイツはこの修道院文化を規範に据 えて復興運動を構想したと措定されるからである。本研究はこの仮説を作品分析と「免疫の詩学」という独自の方法を用いて検 証する―全土をアジール(役/疫を免れた無縁所)である修道院を漂白する巡礼の学僧(無縁者)=媒体に形成された<水辺の巡礼ネットワーク=免疫システム>で結ばれた一つの学術都市・共同体であるという独自の観点に立脚し検証するものである。 以上の命題を検証するために、本年度は、8月の一ヶ月間をかけてアイルランドの修道院の跡地を現地調査した。聖ブリジットゆかりのキルデア修道院、聖ケヴィンのグレンダロッホ修道院、ケリー州の聖ブレンダンゆかりの各修道院など。いずれも、水辺、すなわち海岸・河川・湖畔を一つに<切り結ぶ>巡礼のネットワークの存在が確認された。同時に、このネットワークの存在により、ヴァイキングの標的にされたことも確認された。ヴァイキングたちはこのネットワークに熟知し、これを逆利用して、アイルランドに来襲したからである。彼らがアイルランドに建設した中世都市、ダブリン(黒い川の意)、ウェックスフォード、ウォーターフォードの名前に北欧言語の名残を留めていることからも、このことは確認できる(フォードはフィヨルドに由来する)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究はその着眼点をアイルランド固有の巡礼のあり方、自らを漂白の無縁者=「緑の殉教者」とみなし、修道院をアジール (無縁所としての免役/疫)として定住を拒み、生涯に亘って「贖罪巡礼」の旅を続ける特殊な巡礼のあり方に求める。このあ り方はイェイツの作品全体の核心をなすイメージともなっているからである。もちろん、かかる巡礼の遍路は6~8世紀に全盛期 をむかえた修道院文化、それを成り立たせる<水辺のネットワーク>による巡礼の遍路と重なるものである。イェイツは最初に アイルランド独自の贖罪巡礼に気づき、これを自身の作品世界の核心的イメージである「アイルランドの魂の歴史」を体現する 「古代修道僧=カルディ」=「巡礼の魂」を作品に取り込んでいくプロセスの中で、水辺のネットワークを通じて6世紀に発生 した修道院文化を発見し、これを自身の作品世界、及び自身が先導したアイリッシュ・ルネサンスの規範に据えようとしたと推 測される。イェイツの間テキストに表れる各修道院を聖地とする巡礼の遍路は現時点で調査した限り、いずれも水辺の巡礼ネッ トワークと重なっていることが確認できている。 以上のことについては、すでにこれまでの研究資料の蓄積もあり、検証を行い、それを本年度(平成31年1月)に単著として出版した。「当初の計画以上に進展している」と記したのは、この理由による。
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今後の研究の推進方策 |
アイリッシュ・ルネサンスを牽引したW. B.イェイツと古代修道僧=カルディについては、本年度にその成果を一冊の本に記し、公開した。今後の課題は、イェイツとともにこのルネサンスを牽引した劇作家シングとグレゴリー夫人と古代修道僧との関係を水辺の巡礼ネットワークシステムを手がかりに探っていくことである。注目する地域はゴールウェイ州にあるアラン島とクール荘園である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品が予定より安く購入できたため、余剰金が出た。
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