研究実績の概要 |
本研究は昭和30年(1955年)のウィリアム・フォークナーの訪日が戦後日本文化に与えた影響をはかるとともに、この訪日が作家の晩年のキャリアにおいてどのような意味を持ちえたかを探るものである。最終年度にあたる本年度は、研究のまとめとして相田洋明を編者とする共著書『ウィリアム・フォークナーの日本訪問――冷戦と文学のポリティクス』を出版した。 当該共著書において相田はフォークナーの日本訪問中の行動を一日単位で検討し、さらに『長野でのフォークナー』の分析を試みた。森有礼は日本人の太平洋戦争の記憶・トラウマの物語である『ゴジラ』(1954年)とフォークナー訪日の同時期性に注目し、フォークナーのメッセージが日本人に対する「文化療法(カルチュラル・セラピー)」として機能した可能性を指摘した。金澤哲は訪日をはさんで発表された二つの作品、『墓地への侵入者』(1948年)と『町』(1957年)を比較し、『町』にはフォークナー作品にはまれな楽観性が見られることを指摘したうえで、この楽観性の背後にはフォークナーが長野で見いだした教育の可能性へ信頼があったと論じた。 また、本研究はMichael Modak-Truran監督によるウィリアム・フォークナーの世界初の伝記映画Faulkner: The Past is Never Dead(2023年)の制作に協力し金澤はコプロデューサーを務めた。金澤、森は2023年3月にミシシッピ州オクスフォードで開催されたOxford Film Festival における本作品の世界初上映プレミアに参加し、さらに金澤はDeborah Cohn, W. Ralph Eubanks, Robert Hamblin, Jay Watson等とともに記念パネルディスカッションに登壇して、フォークナーの日本への影響および現代における重要性について語った。
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