研究課題/領域番号 |
18K00423
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
石倉 和佳 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (10290644)
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研究分担者 |
深川 宏樹 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (00821927)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イギリス文学 / 百科事典 / 出版史 / コールリッジ / 方法論 / ハワイ / 教育論 |
研究実績の概要 |
本研究はロマン主義期にイギリスで出版された百科事典の編纂と出版を、ロマン主義的営為としてとらえ、批判的に検討するものである。今年度の活動は主に次の4つである。(1) 昨年度に引き続き、Web上の百科事典の収集を継続し、19世紀の主要な百科事典の収集はほぼ完了した。(2)『ブリタニカ百科事典』第3版(1797)から19世紀半ばまでの版における、ハワイについての記述を検討し論考に纏めた。この論考は、本研究を含む自然と文化に関する研究グループの機関誌『カルチュラル・グリーン』第1号に「記述することの空白:『ブリタニカ百科事典』の描くハワイ」として掲載されている。なおこの論文は前年度に研究会で発表したものを発展させたものである。(3)1819年、コールリッジとキーツがロンドン郊外で出会った際の記録をキーツが書簡に残しているが、その内容がコールリッジの方法の原理の概念を把握しているものと考えられる点を考察した。この内容は、国際学会(ICR)で "John Keats and Coleridge’s Principles of Method--On Their Encounter in 1819"と題して発表した。(4)コールリッジの方法論は、『メトロポリターナ百科事典』の編集方法のアイデアの基盤となったものであるが、コールリッジの方法論を教育という側面から再検討し、「コールリッジの教育論―思考の働きはいかにあるべきか」としてイギリス・ロマン派学会のシンポージアムで発表した。またこれと並行して、コールリッジの教育論をジョン・ロックの教育論と比較し、歴史的に輪郭付け、方法の原理との関連から考察した。これは、「コールリッジの教育論―方法の原理から読む」と題して論文に纏めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度は論文等を纏めるに至らなかったが、今年度は論文2編、国際学会発表1件、国内発表1件とある程度の実績を上げることができた。百科事典の分析において、『ブリタニカ百科事典』が中心となっており、コールリッジの関係した『メトロポリターナ百科事典』などを具体的に取り上げるに至っていないのが現状であるが、この点については最終年度に何らかの考察を試みる予定である。今年度の重要な成果は、『ブリタニカ』の地理的情報(論考ではハワイを中心とした)が、恣意的な情報の取捨選択や不確かな情報に準拠するといったことが非常に多いこと、その結果予想以上にヨーロッパ文明に影響を受けてこなかった人々に関する記述に歪曲が見られることである。この点は百科の知識を求めることを善とする時代の価値観そのものが、誤謬を含んでいるということを示唆しており、この点を今後さらに明らかにする見通しを得た。また、コールリッジの教育論についてシンポージアムで発表を行ったが、スコットランド啓蒙主義の展開としての出版事業が、実利的、現世的な価値観を追い求め、人間の精神的価値を深く掘り下げるということから遠ざかっていたと考えられる点を、『ブリタニカ』の出版事業に当てはめることができるのではないか、という知見を得るに至っている。これらの点は今後の考察に資するものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、主に次の2点から進める予定である。(1)『ブリタニカ百科事典』のポリネシア地域の記述を多角的に理解するために、ジョージ・バンクーバーの航海記を検討し、太平洋地誌における英語圏のディスコースにおいて「空白」となる情報がいかに作られていったのかを考察する。バンクーバーは重要な北アメリカ西北沿岸部の調査に加え、ハワイに関する多くの情報を残したが、彼の航海記は19世紀のイギリスでほとんど十分な考察が行われなかった。英語圏における百科事典の出版と編集のプロセスの中で、バンクーバーの業績が正当に評価を受けず忘れられていくことの意味を掘り下げたい。(2)コールリッジが編集方針を提示し編纂された『メトロポリターナ百科事典』の地誌的情報の取り扱いがどのようなものであるかを検討、評価する。また、『メトロポリターナ百科事典』の出版者は『ロンドン百科事典』の出版者と掲載記事についての法廷闘争を行ったが、この顛末についても『メトロポリターナ』の評価とともに考察できればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果発表を行った『カルチュラル・グリーン』の出版費を、研究会の共同開催者と折半することができたため、当初の予定よりも負担額を少なくすることができたため。
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