研究課題/領域番号 |
18K00426
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秦 邦生 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00459306)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | モダニズム / ノスタルジア / ユートピア / ディストピア / エコロジー / イギリス帝国主義 / 自然 |
研究実績の概要 |
研究計画の4年目にあたる2021年度では、まず前年度後半からとりくんでいた論集『ジョージ・オーウェル『一九八四年』を読む』(水声社)の編集作業を継続し、2021年5月末に無事刊行することができた。この論集では、多くの執筆者・翻訳者の協力を得て、現在あらためて注目の集まっている古典的ディストピア小説『一九八四年』を多角的な見地から解読する論考を数多く収録した。執筆者としてはオーウェルにおける「人間らしさ」の観念を自然や動物との関係性からとらえなおす論点、ならびに「古典」としてのテクストを現代との緊張関係のもとに読む方法について認識を深めることができた。 年度後半には、20世紀後半に活躍したイギリスの文化批評家レイモンド・ウィリアムズの1971年の著作『オーウェル』を翻訳し、2022年2月に月曜社から単行本として刊行した。これと同時に、従来注目されてこなかったオーウェルについてのウィリアムズの短い論考6篇を訳出し、さらに1940年代から80年代にかけてのウィリアムズのオーウェル観の複雑な変遷を批評史的に整理する論考を訳書の「附論」として執筆した。20世紀なかばにオーウェルが切り開いた独自の社会主義思想が、20世紀後半イギリスの主要な文化思想家によってどのような再解釈を受けたのかをたどることができた。 並行して、論集収録の論考の延長線上に、オーウェルの自然観・動物観をさらに掘り下げるために、1920年代から30年代にかけてのオーウェルのイギリス帝国関係の著作(特に最初の小説『ビルマの日々』)をエコロジー的観点から再検討する作業をおこなった。これについては、2022年度初頭に国際学会で口頭発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度から2年間続いたコロナ禍のため海外での資料収集や海外研究者との研究交流はできなかったものの、古書や新刊書籍として入手可能な資料をもとに研究をすすめ、21年度には主要な研究関心であるジョージ・オーウェルについての編著一点、翻訳書(単訳)一点を刊行することができた。とくに後者はオーウェルと20世紀後半イギリスの主要な文化思想家レイモンド・ウィリアムズとの関係について知見を深めることができたことが大きな成果だった。海外出張ができなかったために予算の執行計画を組み替えたために、本研究課題は 22年度に延長することになったが、研究自体はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
22年度はまず、21年度後半から取り組んだエコロジー的観点からのオーウェルの著作の再読をすすめ、国際学会での研究発表ならびに、環境批評についての知見の積み増しを行う予定である。従来、オーウェルの自然愛はしばしば感傷的ないし(悪しき意味での)ノスタルジアの兆候ととらえられる傾向が見られたが、オーウェルの自然愛をエコロジーや環境批評の観点から再解釈する視点は、ノスタルジアの問題をあらたな問題関心に接続する可能性を持っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、2019年度・2020年度に海外出張によって資料収集や国際研究交流をおこなう予定であったが、折からのコロナ・ウィルス感染症の流行によって、その実施が困難になってしまったために、市場で入手可能な新刊書籍や古書を入手して、資料の分析・研究をおこなう方向に切り替えた。当初は出張で支出予定だった経費を物品購入などに充当することになったために経費の執行スケジュールをゆるやかにする必要があり、4年計画だった本研究計画を5年計画に切り替えた。また、4年目の後半からは、ノスタルジアの問題をエコロジーの意識に接続するあらたな着想を得たため、その方向性をつきつめるための時間として5年目の2022年にあらたな資料収集をおこなう計画である。
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