研究計画の5年目にあたる2022年度では、コロナ禍の影響もあって21年度に使い切ることができなかった資金を活用し、この研究課題が中心的な重要性を持つ作家として想定していたジョージ・オーウェルについて、エコロジー的観点を加味してさらに研究を進めた。まず、2022年度4月にはオンラインの国際学会にて、ジョージ・オーウェルと植民地における森林伐採の問題について英語での口頭発表をおこなった。同じテーマをさらに発展させた議論は、2023年3月のジョージ・オーウェル生誕120周年記念イベントでも発表を行った。このいずれの報告も、従来後ろ向きの情動として想定されてきた「ノスタルジー」を植民地主義の問題を背景に空間論的にとらえかえし、さらに自然保護や環境人文学の問題意識へと接続するものであり、次の研究計画の構想に向けた重要な布石となった。 研究期間全体としては、2020年度からのコロナ禍のために海外での資料調査などは実施できなかったものの、古書や新刊書籍として入手可能な資料をもとに研究をすすめ、特に4年目である21年度には主要な研究関心であるジョージ・オーウェルについての編著一点、翻訳書(単訳)一点を刊行することができた。さらに研究期間を延長した22年度には上述のとおり、ノスタルジーの問題と植民地主義、環境人文学の問題意識の接続点を探り、それらのテーマを近代ユートピア/ディストピア文学の発展の中にさぐる、あらたな研究の展開をみることができた。
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