本研究課題の最終年度の実績は、王党派詩人リチャード・ラヴレースの詩作品を、メランコリーという観点から分析した論考「メランコリックな王党派詩人――ラヴレースの『ルカスタ』」を、青山学院大学『文学部紀要』第65号に発表したことにある。本論文は、2022年6月25日におこなった口頭発表「LovelaceのLucasta (1649)について――獄中の恋愛詩」の内容に加筆、修正を加えたもので、内乱期から共和制下において、反議会派、国王支持者として活動し、投獄も経験したラヴレースの詩集には、恋愛詩を通じて国王への忠誠心が明確に表明されていることを述べた。曲もつけられた彼の詩は、同時代の手稿で繰り返し筆記されたという事実からも、王党派たちの間で大きな共感を呼んだことがわかる。内乱により、国王が王座にとどまることが難しくなった後、あるいは国王処刑後、詩集で呼びかけられる恋人ルカスタと国王を同一視して国王を求めたことがラヴレースの詩集の特徴である。そして、このように不在の者を求める行為は、メランコリー的気質の者に見られる特徴ととらえられることを論じた。 研究期間全体を通じて、口頭発表4回、論文2本、共著1冊を研究成果として公表することができた。当初の研究期間最終年度にあたる年が新型コロナウイルス感染拡大により、研究期間を複数回延長したものの、予定していた海外研究機関での資料閲覧が遅れたため、研究期間内に目標とした内容を完全には達成することはできなかった。しかし、2020年度の研究成果である共著での1章と1本の論文、そして上記の2023年度の研究成果である論文を通じて、政治的側面を考慮しながら、共和制下での王党派の詩と一見非政治的に思われる歌集との関連や、メランコリーを通じた分析など、従来光を当てられることがなかった面を明らかにでき、さらに今後の研究にも発展させることができる内容となった。
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