最終年度ではアフリカ系アメリカ女性芸術家(彫刻家・劇作家)ミタ・ワリック・フラーの活動を、「1920年代のハーレム」という時代と場所を越える視点から調査した。ハーレム・ルネサンスが、時代、場所、ジェンダーなど様々な意味において脱領域的な芸術・社会的活動であったことは、本課題期間中に出版した『ハーレム・ルネサンス』(2021年)によってすでに示した。しかし500頁を費やした本書においても十分に触れられなかった点の一つを現地調査で深めた。フラーは、ペンシルヴェニア州フィラデルフィアでうまれ、19世紀末から20世紀初頭にはパリで、彫刻家オーギュスト・ロダンの弟子として芸術活動を深めていく。興味深いのは、彼女がパリから帰国後、黒人として初の精神科医となるソロモン・フラーと結婚し、マサチューセッツ州のフラミンガムに住み、以後1953年に没するまで当地に住み続けながら黒人芸術表現を追求した点である。フラミンガムの白人コミュニティーに住まう初めての黒人夫婦としての彼女の軌跡を、実際に彼女の作品が展示されたこともあるボストン公共図書館や周辺図書館にて調査した。その結果、本課題を発展するためのヒントとなるある一つの歴史的事実を再確認することができた。英米間の独立戦争の端緒となる「ボストン虐殺」事件にて最初の犠牲者となった人物クリスパス・アタックスとフラーとの時間を超えた接点である。ネイティブ・アメリカンと黒人との混血といわれるアタックスとフラーはともにマサチューセッツ州フラミンガムにて、約200年の時を隔てているとは言え、独特な政治的文化的遺産を共有することとなる。1920年代のハーレム・ルネサンスを代表とする黒人女性芸術家フラーから翻って18世紀合衆国独立のナラティブを辿れること―このような思索の可能性を現地調査によって確認し本課題のまとめとした。
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