本研究は、1930年代から1960年代にかけての英国ミドルブラウ文学・文化が有した国際性と革新性を明らかにするために、(1) この分野で重要な役割を果たしたW. Somerset MaughamとOlivia Manningという、英国の〈外〉で第二次世界大戦を経験し、英国内外の高踏的・大衆的定期刊行物に寄稿した重要なミドルブラウ作家に焦点をあて、(2) これらの作家の評論、短篇・長編小説、小説の映画化作品のなかでも、(i) Maughamに関しては東南アジア、(ii) Manningに関してはバルカン半島、に関係するテクストを、(3) ナショナリティとジェンダーの観点から分析し直すことによって、(4) 英国ミドルブラウ文学・文化が、第二次世界大戦から冷戦期にかけて、ヨーロッパとの関係で揺れる英国のナショナル・アイデンティティや、世界各地のモダナイゼーションの過程の不均衡を表象する、クリティカルな営みであったものと捉え直すことを目指したものである。 Manningについては概ね当初の目的を達成する研究実績を作ることができたが、コロナ禍のせいで2019年度末の春休み、2020年度、2021年度にBritish LibraryやNew York Public Libraryに行くことが不可能となり、Somerset Maughamについては十分な研究実績を作ることができなかった。しかしながら、Manningの研究を進める過程で、Manningがイギリスの定期刊行物だけでなく、エジプトやギリシアのイギリス作家のコミュニティにくわわり、カイロのイギリス作家が現地で発行する定期刊行物に原稿を寄せていることを発見した。それによって難民のテーマとイギリスのモダニズムの関係という新しい研究テーマを発見することができた。
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