最終年度となる令和4年度は、前年度までに作成した古・中英語期の女性を中心とする聖人伝のパラレルテキストを利用して、エルフリックと他の古英語作家たちの女性描写を比較し、その特徴を、通時的・共時的に分析して明らかにしようと試みた。比較に当たっては、特に、それぞれの作家たちの使用語彙とナラティブメソッドに着目し、エルフリック独自の語彙選択の傾向や作品構成上の工夫に焦点を当てて検証作業を行った。 同時に、本研究課題のために、既存のテキストをもとに独自に作成したディプロマティック・パラレル電子テキストと原写本との厳密な比較照合を行い、新たな電子テキストの精度を高めるとともに、既存の刊本テキストについての修正提案を行った。 詳細なテキスト分析の結果、エルフリックの女性聖人の描写は、ラテン語原典に比べて簡潔であり、女性性が希薄になっていることが明らかになった。また、彼が女性描写で特徴的に用いる語彙は、基本的に本来語で、Beowulfなどの古英詩に描かれる高位の女性に対して使用されている語彙と共通していることも判明した。 本研究課題では、新型コロナウイルス感染拡大による海外渡航制限等の影響で、海外図書館所蔵の原写本の閲覧が、本来の計画年度内には実施することができず、大幅な予定の遅れと、計画の一部変更を余儀なくされることになったが、二度の期間延長を経て、本年度末にようやく閲覧が可能となったことで、最終的には当初の研究計画に近い形で課題を終えることができたと考えている。
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