研究実績の概要 |
当該年度においては、招待講演を三度行った。大阪大学言語社会学会2022年度学術記念講演会においては、戦争を描く2010年代の移民小説を複数取り上げた。また、プリンストン大学での講演は現代英語小説を日本語に翻訳する際に「物語」をめぐる日英それぞれの言語の慣習の差異がどのように影響するのかを考察した。ラトガーズ大学では、アジア出身の作家たちによる英語での創作がどのような「アジア」像を提示するのかについて検討を行った。
また、研究関連分野における小説の日本語への翻訳も行った。特に、C・パム・ジャン『その丘が黄金ならば』(C Pam Zhang, How Much of These Hills Is Gold)、およびジーナ・アポストル『反乱者』(Gina Aspotol, Insurrecto)は、ともにアメリカ生まれではない作家が、西部という土地を反土着的なものとして描く(ジャン)、あるいはフィリピン社会の成立にアメリカとの関係が重要な役割を担うさまを探求する(アポストル)という点で、本研究において欠かせないテクストである。
研究期間全体を通じて、アメリカ文学における「土着性」という視点には、「単一性」と「所有」の二つの概念が関わってくることが明らかになった。土着の言語は、それを母語とする、すなわちその言語を「所有」する集団の単一性に結びつきやすいからである。それに対抗して「偶然性」を導入しようとする現代作家たちの試みには、必然的に「複数性」と「非所有としての参入」という要素がつきまとうことになる。そこに「翻訳」という主題が重なり合うという点について、引き続き研究を進めていく必要がある。
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