研究課題/領域番号 |
18K00438
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
ウェルズ 恵子 立命館大学, 文学部, 教授 (30206627)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミンストレルショー / ミュージカル / 歌詞 / 音楽文化 / ポピュラーソング / ヴァナキュラー文学 / 文化接触・文化交流 / アメリカ文化 |
研究実績の概要 |
本研究ではMinstrel Showsと初期Broadway Musicalを、19世紀から20世紀前半の文化交流史的文脈で追求した。Minstrel Shows は都市部の下級労働者を聴衆とする芸能で留まるものではなかった。都市郊外や農村の中間層住民が演じる劇場でも愛好され、大衆文化の流通に大きな影響力を持った。下層から中間層にわたる影響力ゆえに、Minstrel Showsの娯楽的な枠組みは1920年代以降のラジオ番組にも接続した。Minstrel Shows は、芸人・聴衆双方の移動性の高さと多文化・多言語性を背景とした芸能であった。この特質はアメリカ文化の伝統の大事な部分を育んだといえる。この背景のもと、Minstrel Shows では聴衆がその場で一体感を持つ工夫がなされていた。すなわち(1)表現内容は単純で共通理解が即座に容易な保守的偏見と価値観に基づく、(2)聴衆層に共通して影響のある時事問題に敏感で、テーマやモチーフに揶揄や風刺を含む、(3) 聴衆層が共有する知識のアダプテーションやパロディを好む、(4)音楽やダンスなど、言語に頼らない楽しみを多く含む、(5)異なる文化を背景とする人々がそれぞれ馴染みに感じるモチーフを使いつつ、ステレオタイプの提示と増長によって価値観の共有を確認する。これらの特徴は人々が「アメリカ人」という共同アイデンティティを育てていくのに一定の役割を果たしたが、差別的な問題を含む文化的伝統をも形成した。Minstrel Shows は大衆の偏見や差別意識に基づいた既存の社会観に媚びる方向をとり、芸能の言語部分では後世に残るものを創造し得なかったが、音楽とダンスにおいてその価値を高めた。これに対して初期のMusicalは、オペラに付随する上流意識とアメリカ音楽の大衆性とを接続した上に、言語によって表現される物語性を展開することができた。これにより Musicalはアメリカ生まれの総合芸術として発展する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
明らかになったことは、以下である。歌謡を中心にまとめた。 (1)1840s~1870s《風刺の時代:Irishの伝統のもとに》Minstrel Showsを通してアメリカ生まれのポピュラーソングが流通する。代表的な作詞作曲家はStephen Fosterである。Fosterの歌詞は戯画的なものからロマンチックで叙情的に変わっていき、次の時代を予兆した。この時期、アイルランドの酒場歌やスコッティシュバラッドなどの伝統歌をもとにした歌が多数作られていた。1840-70年代は、アイリッシュ芸能が得意とする風刺とアダプテーションが盛んな時代であったが、後世に伝統を残したのはアイリッシュの伝統とは異なる作品を創作したStephen Fosterであった。 (2) 1880s~1910s《文化融合の時代:Jewish の伝統を秘めながら》Tin Pan Alley の音楽出版ブームでポピュラーソングが広まった。ショーの音楽、ユダヤ人系音楽、黒人系音楽などとクラシック音楽の要素が混合し、新しい時代の音楽が作られた。歌詞は比較的単純で多文化適応的である。代表的な作詞家は Irving Berlinである。一方で、ビートとリズムを主とするラグタイムやジャズが流行する。言葉を含まない黒人系音楽にTin Pan Alley系の歌詞がついて流行する潮流が生まれた。 (3) 1920s~1930s《ロマンスの時代:ミリタリズムのカウンターパートとして》Broadway Musicals の ヒット曲を中心にスタンダードナンバーが多く産出された。設定を西部や南部など聴衆の周縁部から取り入れることで現実感あるファンタジー世界を作り上げ、名曲の多くはロマンスをテーマにしている。優れた作詞家にDorothy Fields, Ira Gershwin, Lorenz Hart, Cole Porter, Oscar Hammerstein IIなどがいる。ロマンチックラブを主なテーマとする歌謡は、二つの世界大戦に挟まれた時代のアンチテーゼだったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間中に明らかになったことと収集した2021年度調査の資料分析を踏まえ、2022年以降で研究成果を著書にまとめる。執筆の過程で必要を感じた場合は、初期ミュージカルからミュージカルの全盛期である1940年代までを執筆対象とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の 流行により渡航制限があり、前年度に引き続き海外の資料調査ができなかった。海外旅費として予定していた金額がそのまま持ち越されてしまった。2022年度に海外渡航ができるようになれば出張費として使用したい。できない場合は購入可能な資料を調査して手配したい。
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