研究課題/領域番号 |
18K00439
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
中村 仁紀 大阪医科大学, 医学部, 講師 (30582564)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ロマン主義 / 帰納法 / 仮説 / ロマン主義時代の化学研究 / 目的なき合目的性 / Bildung |
研究実績の概要 |
平成30年度はロマン主義時代の「仮説思考」の様々な様態を捉えるため、科学・思想史の複数の文脈に依拠しながら、主にS.T. ColeridgeとW. Wordsworthの取り組みを研究した。主な成果は以下の3点である。 (1) David Hartleyの観念連合理論を中心に18世紀経験科学における帰納法と仮説思考の関係性を整理し、かつそれがColeridgeの「科学哲学」的意識にどう影響を与えたかを考察した。その成果は学術誌への投稿論文としてまとめた(2019年5月現在査読中)。 (2) 18世紀末~1820年代の英仏の化学史の発展がロマン主義時代の認識論にどのように影響を与えたかを、Humphry Davyの元素析出と言語的同定の方法、および(それに影響を受けたと考えられる)Coleridgeの言語識別の方法を通して研究した。その成果は4月の関西コールリッジ研究会で発表し、また大阪大学英文学会叢書『カット!―英米文学に切り込む―』に収められる予定の論文(「コウルリッジの『分離せず区別すること』の方法論とその展開――熱素に対する彼の理解と化学史的文脈からの一考察――」)にまとめている(印刷中)。 (3) 18世紀末のドイツ由来のBildung概念に見られる記述方法がいかに19世紀初頭までの諸科学分野(地質学、形態学、生命科学、比較解剖学、比較言語学、歴史哲学等)の方法論として援用されていたかを調査し、その現象認知の構造を一つのエピステーメとして解釈した上で、それが文学史におけるBildungsroman(教養小説)の言説にどのように流れ込んでいったのかを研究した。この成果は「ロマン主義における経験記述の方法と反教養小説的思考―ワーズワスとダーウィンの『目的なき合目的性』」という題目で日本英文学会全国大会のシンポジウム(2019年5月)で発表し、その後論文としてまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度はロマン主義時代の文学作品そのものに対する研究は手薄であったが、本研究課題のテーマである仮説思考の様々な形態や発展過程を思想史的に跡付け、論文執筆及び研究発表を通して具体的な形でまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は当初の予定通り、主に18世紀中期から19世紀初頭に至るまでのロマン主義時代の批評や詩学における非帰納的な類推(アナロジー)の思考様式の用いられ方について研究する。とりわけ、Joseph ButlerやWilliam Paleyを中心とする自然神学の「デザイン論証」に含まれるアナロジー思考が、人間と自然との関係、あるいは啓示や信仰といった宗教的経験を記述する際のロマン主義詩人らの方法論にどのような影響を及ぼしていたか、あるいはどのような共振性や差異があるのかを調査する。国内外の図書館及びデジタル・アーカイブを通じて18世紀末~19世紀初頭の神学、文学、科学関係の一次資料を収集し、その分析を行う作業が中心となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、論文執筆に予定以上の時間を割いた都合で国内外旅費を十分に活用できず、また購入予定だった資料の収集を取り寄せやデジタルアーカイブの活用によってカバーしたためである。繰越金は平成31年度において前年度に調達できなかった図書資料の収集のための旅費・購入費、および投稿予定の英語論文の英文校正費に充てる予定である。
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