感染症の流行とそれに伴う社会情勢の変化により、当初計画では三年間で完了させられるはずの本研究は五年間を要した。しかし最終年度に当たる本年度は、これまでの研究成果の総括として、晃洋書房より『聖家族の終焉とおじさんの逆襲―両大戦間期ドイツ児童文学の世界』という図書(学術研究書)を上梓することができた。なお、出版に際しては公益財団法人ドイツ語学文学振興会より刊行助成を受けた。 また、本研究に従事する過程で研究代表者は、1933年に発表されたドイツのクリスマス児童文学、すなわちケストナー『飛ぶ教室』とシュナック『おもちゃ屋のクリック』について考察した際、おじさん表象の背後に存在する父親像を無視して論じることはできないということに思い至った。なぜなら1933年はナチスが政権を掌握した年であり、この年の児童文学に描かれた男親の背後には国父、すなわち強い父親像を体現しようとしたヒトラーの姿が見え隠れするからである。そのことはすでに前年度(令和3年度)の研究実施状況報告書の「研究実績の概要」に記した通りだが、本研究の研究代表者は、この気づきをおじさん的存在の軽視と濃密な父娘関係に特徴づけられるナチス時代の少女文学に援用することによって、令和4年度から「父娘関係を背景にしたナチス少女文学の成立と展開についての研究」という課題で新たに科研費を獲得することができた。本年度は本研究の総括の書籍化と、新たな課題の初年度の研究を同時並行で行ったが、そうすることでこれらふたつの研究をスムーズに接続することができた。これもまた本研究の最終年度の実績として特筆されるべきものと考える。
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