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2018 年度 実施状況報告書

「黒いケルト」―ケルト周縁地域における人種論の考察―

研究課題

研究課題/領域番号 18K00447
研究機関静岡大学

研究代表者

森野 聡子  静岡大学, 情報学部, 教授 (90213040)

研究分担者 香戸 美智子  京都外国語大学, 外国語学部, 教授 (60748713)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワードJohn Beddoe / 形質人類学 / アイステズヴォッド / ケルト人種
研究実績の概要

本年度は,ヴィクトリア朝のケルト人種論を代表する,イングランドの形質人類学者John Beddoe (1826-1911)に焦点をあて研究を行った.
研究代表者は,1868年のウェールズ・ナショナル・アイステズヴォッドの懸賞論文 ‘The Origin of the English Nation’ でBeddoeが優勝した事に注目し,2018年5月にブリストル大学図書館所蔵のBeddoeの論文草稿について調査した.また,ウェールズ文化振興のために創出されたアイステズヴォッドが1860年代に「イングランド国民の起源」を懸賞テーマに設定した背景や経緯について当時の資料より考察した.その結果,イングランドからの近代化の要請に応じようとするウェールズ知識層においては,彼らの祖先ブリテン島の先住民の血統が19世紀のイングランド住民にも伝わっていることを実証的・科学的方法論で検証することが求められており,方やイングランド側では,連合王国の国民をケルト人種を含む「混血」として定義することが国民国家維持のために不可欠であったことが判明した.以上の研究成果については2019年3月9日に行われた日本ケルト学会東京研究会で発表した.
研究分担者はBeddoeに加え,同時代の人類学者,James Hunt,Joseph Bernard DavisやJohn Thurnam,Thomas H. Huxley,さらに彼らの活動母体ロンドン民族学協会,ロンドン人類学協会などについて調査し,人類単一起源説と多地域起源説,進化論,遺伝と環境に関する議論など,ヴィクトリア朝における人種論の重層性を明らかにした.一方,フランスのブロカなどに比べ,形質的特徴からケルト人種を定義する研究はBeddoeを除くと少なく,イングランドと大陸ヨーロッパにおけるケルト人種論の相違が今後の研究課題として予想される結果となった.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ヴィクトリア朝における人種についての科学的言説の変遷,および,それを支える思想的変化の大筋を把握し,その中でのケルト人種論の位置付けについて以下に挙げる理解に到達したことで,本研究が射程に入れるべき問題が整理できたと考える.また,研究代表者・研究分担者ともに,本研究課題に関する発表が,2019年7月にウェールズのバンゴール大学で開催される国際ケルト学会で受理されたことも,研究が順調に進展している証左と言える.

1)ロマン主義や好古趣味・印欧比較言語学に基づくケルトの言語・文学・民族的特性・民族起源等についての言説が,民族学・人類学によるケルト人種論へと移行する画期が1850~60年代であること.言い換えれば,聖書の人類単一起源説や印欧語族研究において言語共同体/民族として規定されてきたケルトの「人種化」(ただし,当時のraceという語は民族の意も含意する)が連合王国ではヴィクトリア朝において起こったこと.それは連合王国におけるヒト集団についてのさまざまな学問分野の誕生と期を一にするため,ケルト人種論には多様なアプローチや解釈が存在したこと.
2)ヴィクトリア朝のケルト人種論は,多民族多言語からなる連合王国を想像の共同体として統合するため,さらにはケルト周縁地域の自治問題へも対応するため,非常に政治的な色彩の濃い言説として多様な役割を担っていたこと.
3)同じケルト人種といっても,独立運動の盛んなアイルランド人とイングランドとの同化を志すウェールズ人に対しては,差別化する言説が生成されていたこと.

今後の研究の推進方策

初年度の研究成果を踏まえ,今後は以下に挙げる点を中心に研究を推進する予定である.
1)ブリテン諸島の住民起源論について:大陸ヨーロッパからのケルト人種の渡来以前にイベリア半島からの移住があったという中世の伝説が,19世紀において考古学や形質人類学の発展とともに「事実」として「科学的」に編制されていく過程を検証する.
2)上記の「イベリア人渡来説」が,ブリテン諸島のケルト周縁地域における人種構成の差異化にどのように援用されていったのかを精査する.
3)人類学においてはBeddoeが提唱したケルト人種とテュートン人種の「混血」にブリティッシュネスを見る議論は,人文学分野では同時代にMathew Arnold が提唱しているものであるが,人種の混淆を国民国家の国民のモデルとする言説が,その後どのように変容していったのかを検証する.
4)現代のDNA解析などをもとにした遺伝学が,ブリテン諸島住民の起源論についてどのような見解をとっているのかを考察する.

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] (研究ノート)科学者ベドウの研究とブリテン諸島周縁地域をめぐって2019

    • 著者名/発表者名
      香戸美智子
    • 雑誌名

      京都外国語大学『COSMICA』

      巻: 48 ページ: 65-83

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] ダーウィン以前のブリテンにおける「ケルト人種論」についての考察:スコットランド・ゲルマン起源論争を読み直す2018

    • 著者名/発表者名
      森野聡子
    • 雑誌名

      『ケルティック・フォーラム』

      巻: 21 ページ: 5-16

    • 査読あり
  • [学会発表] アイステズヴォッドにおける人種論の展開:懸賞論文 ‘The Origin of the English Nation' をめぐって2019

    • 著者名/発表者名
      森野聡子
    • 学会等名
      日本ケルト学会東京研究会
  • [学会発表] ロマンティック・バレエにケルティシズムを見る試み2018

    • 著者名/発表者名
      森野聡子
    • 学会等名
      第38回日本ケルト学会研究大会

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公開日: 2019-12-27  

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