研究課題/領域番号 |
18K00448
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松澤 和宏 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (30219422)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 写実主義 / フローベール / 宗教 / 美学 / 形而上学 / 倫理 / 現代性 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究実績として、研究発表3件と3本の論文執筆をあげることができる。 研究発表として、フランス国立科学研究センター近代テクスト草稿研究所(パリ)創立50周年記念国際大会で、草稿研究と作品解釈に関する招待講演を行なった。名古屋大学人文学研究論集第2号 (2019年3月)に講演原稿は公刊されている。 また日本フランス語フランス文学会中部支部大会で「ルネ・ジラール、フローベール、 19世紀」と題する研究発表を行い、フローベールの倫理的宗教的主題にルネ・ジラールの欲望の模倣論の観点から光をあて、さらに19世紀のバルザックやモパッサンとも比較検討した。 3月には最終講義として「フローベールの「写実主義」の形而上学的宗教的次元について」と題する最終講義を行い、代表作『『ボヴァリー夫人』と『純な心』における宗教感情について論じた。研究課題である「フローベール文学の倫理的宗教的読解」の研究成果の現時点での報告である。また社会思想史学会による『社会思想史事典』(丸善出版, 2019年1月)の「写実主義」の項目を執筆担当し、フローベールの「平等」をめぐる思想とその文学的表現に言及した。 また日本フランス語学会誌「フランス語学研究」第52号に「ソシュール的恣意性の深淵とラングの言語学」を発表し、フローベールにおける宗教的主題がこれまで軽視されてきた理由でもある「現代性の神話」の形成に多大な影響を与えたソシュール解釈の偏向を糺すべく努めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題に直接関係する研究発表の機会に恵まれ、論文の執筆と刊行の機会にも恵まれた。またキリスト教関連の文献、特に神学に関連する文献の読解を通して、宗教的的主題への理解が深まった。また、これまでの研究課題の一つであったソシュール研究によって、フローベールの現代性の神話が、ソシュールのフランスにおける言語自立論的受容によって促されてきたことが容易に把握できるようになった。長年にわたるソシュール研究によって、現代性の神話によって久しく等閑に付されてきたフローベール文学の倫理的宗教的読解の可能性が、逆説的に明確になってきたことは大きな成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで申請者が発表してこなかったフローベール晩年の「三つの物語」を対象とした論考の執筆と刊行を当面の目標にする。と同時に初期作品や写実主義的小説についても宗教的主題に着目した論考を執筆する予定である。 また19世紀におけるキリスト教が文学に与えた影響の一端を、フローベールに影響を与えたシャトーブリアンに即して6月にパリで催されるシャトーブリアン学会で発表する予定である。また2021年のフローベール生誕200年に向けた日本とフランスでの国際シンポジウムへの参加およびそれらの組織化にも日本フローベール研究会の責任者として関わっていきたい。
|