研究実績の概要 |
当初の研究計画の即してフローベール文学の倫理的宗教的側面について2本の論文を発表し、またフランスでの研究発表を行った。 (1)「フローベール『純な心』における愛と信仰とアイロニー」、名古屋大学人文学研究論集、第3号、名古屋大学人文学研究科, 2020年3月, 105-123 頁(査読論文)。近年のフローベール研究は、作家最晩年の作品「純な心」をもっぱらアイロニカルな作品と捉えてきたが、作家の草稿における執筆過程の分析や先行研究の批判的検討を通してこの作品が主人公フェリシテの愛の創造性を、その悲劇的側面とともに描いていることを、これまでに指摘されてこなかったオバン夫人の変貌を通して明らかにした。 (2)「フローベールの「写実主義」の形而上学的宗教的次元についてー『ボヴァリー夫人』から『純な心』へー」 , Variete nunero special 2019、名古屋大学文学部・人文学研究科フランス語フランス文学研究室, 2019年11月, 21-39頁。『ボヴァリー夫人』と『純な心』はともに同じプランを母胎として誕生した作品であるが、前者の結末近くでのシャルル・ボヴァリーが亡き妻エマの愛人を一方的に赦し、自然の中に溶け込むように死んでいく場面に愛と赦しをめぐる宗教的主題の顕在化を読み取り、それが『純な心』における無学なフェリシテの聖性に繋がってくることを、通説の批判的検討を通して、明らかにした。 (3) La reception de Chateaubriand au Japon (シャトーブリアン学会、2019年6月15日、エコール・ノルマル・シューぺリュール、パリ) フローベールが大きな影響を受けたシャトーブリアンの日本における受容について研究発表を行なった。近くシャトーブリアン学会誌に論文(査読あり)は刊行予定である。
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