研究課題/領域番号 |
18K00448
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松澤 和宏 名古屋大学, 人文学研究科, 名誉教授 (30219422)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 愛 / 宗教 / 倫理 / 語り / アイロニー |
研究実績の概要 |
2021(令和3)年度は、日本のフローベール研究者19人の執筆による論文集の共編著者の一人でとして『フローベール 文学と<現代性>の行方』(松澤和宏、小倉孝誠編、水声社、2021年10月)を刊行し、「序 フローベール 19世紀 そしてわれわれ」、「シャルルの変貌 『ボヴァリー夫人』における愛と赦しとアイロニー」、「『『感情教育』とバルザック『現代史の裏面』」「『純な心』におけるフェリシテとオバン夫人」の3本の論考を掲載した。いずれも本研究課題であるフローベール作品の倫理的宗教的読解の試みである。 また論考「フローベールの<主観的語り>(自由間接話法と視点)の文脈依存性について 『ボヴァリー夫人』『『感情教育』『純な心』の場合」(阿部宏編『語りと主観性』ひつじ書房、2022(令和4)年2月)では、従来の言語学的物語論的な形式的アプローチの限界を指摘し、意味論的解釈学的次元を作品に即して明らかにして、倫理的宗教的主題の重要性を浮き彫りにした。 さらに書評論文「「狂った囚人」とトクヴィルー梅澤礼『囚人と狂気 19世紀フランスの監獄・文学・社会』を読んで」(日本フランス語フランス文学会中部支部研究論集」45巻 2022(令和4)年1月)では、渋沢・クローデル賞、サントリー学芸賞受賞作における思想家トクヴィルに関する記述の問題点を指摘し、19世紀のフランスの文学および社会における<罪と罰>をめぐる問題を考察した。倫理や宗教と深く関わるこも問題は同時代のフローベールの文学も共有するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『フローベール 文学と<現代性>の行方』に掲載された3本の論考において、フローベール文学の代表作である『ボヴァリー夫人』『『感情教育』および『純な心』についての倫理的宗教的読解をそれぞれ論考として提示することができた。また『フローベール 文学と<現代性>の行方』の編者として執筆した「序 フローベール、19世紀、そしてわれわれ」において近年のフローベール研究の動向を概観し、倫理的宗教的読解の重要性が増してきていることを具体的に指摘し、以上の主要作品以外のフローベールの作品についても一定程度の見解を示し得たと考える。 また論考「フローベールの<主観的語り>(自由間接話法と視点)の文脈依存性について 『ボヴァリー夫人』『『感情教育』『純な心』の場合」(阿部宏編『語りと主観性』)では、上記の論考とは別の観点から、自由間接話法と視点に着目して、従来の通説を批判的に検討し、各作品に内在する倫理的宗教的次元を明らかにし得たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
主要作品の倫理的宗教的読解をさらに継続して深めるとともに、フローベールの初期作品や書簡に窺われるフローベール自身の死生観にも光をあてることが残された課題である。そのためには、従来の研究では十分に注意を払われてこなかった、フローベールが読んでいた古代・中世の文学や宗教関係の文献を間テクスト性の観点から取り上げ、それが作品の倫理的宗教的な次元といかに深く関わっているかを明らかにする予定である。またこうした研究成果の一端を2022年12月にパリで催される国際シンポジウム『フローベールにおけるイマージュ』で発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、予定されていた国際シンポジウムが1年延期されたため。
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