フローベールの文学は、1960年代後半以降、その小説技法の現代性が注目を集め、マラルメからジョイスを経てヌーヴォー・ロマンに至るモダニズムの観点から読解が進められてきた。そうした観点はフローベールの作品が投げかける倫理的宗教的な問いかけを正面から受け止めることがなかった。しかし作家の書簡に明らかなように、作家は同時代の政治や社会の動向に「熱烈なリベラル」として批判的視線を注いでおり、また宗教的なものを最も重要なテーマとして捉えていた。作家の思想と作品との複雑で緊密な関係を明らかにすることは、同時に多くの研究者の囚われている現代的先入見を問題化することに直結するだろう。
|