研究課題/領域番号 |
18K00450
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
亀井 一 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (00242793)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 書評 / ドイツ啓蒙主義 / 公共性 / メディア / 汎神論論争 / 読者論 / フリードリヒ・ハインリヒ・ヤコービ / モーゼス・メンデルスゾーン |
研究実績の概要 |
ヤコービとメンデルスゾーンの汎神論論争を中心に研究期間二年度の調査結果をまとめ、日本ヘルダー学会で口頭発表した。ヤコービ『スピノザの学説に関する書館』が刊行された1785年から、ヤコービ『信念をめぐるデヴィッド・ヒューム』が刊行された1787年3月までに発表された七本の書評を分析し、論争における書評紙の役割を明らかにした。書評紙は、同時代の多くの読者にとって、論争についての情報源だった。書評記事が、かなり長い直接引用、間接引用で埋められているのは、原著を読むことができない読者を想定してのことであると考えられる。書評記事は、今日の学術的な水準に照らして、画期的な見解が表明されているわけではない。書評者は、ヤコービ、メンデルスゾーンの著書に書かれていることをパラフレーズし、重要だと思われるところに光をあて、簡単なコメントを加えているにすぎない。しかし、書評者が、それぞれの立場からコメントを加えていく過程で、汎神論論争に含まれているいくつかの論点のうち、ヤコービの「信」の概念が争点として浮かび上がってくる。結局、このテーマが、ヤコービのヒューム論に引き継がれていくのである。書評には、個々の書評者の力量を超えた公論としての働きがある。論争の当事者も、書評紙の影響力を意識していた。 汎神論論争が、難解な内容にもかかわらず、広い読者層の関心を喚起したのは、レッシングがスピノザ主義者だったというスキャンダルが論争の契機になっていたためでもある。書評者はほとんどの場合、レッシングについては報告にとどめ、もっぱら形而上学的な問題について論じている。しかしもう一方で、地方紙には、スキャンダルを書き立てる広告も掲載されていた。書評に代表される公論が、読者一般の現実的な関心にかならずしも一致していなかったことが推察される。 発表原稿は大幅に書き換えて、紀要論文に投稿した。これから査読にかけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究に取り組む時間を十分に確保することができなかったため、前年度までの遅れを回復することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、研究期間3年度にノヴァーリスの「百科全書構想」を手掛かりにして、エルシュの『一般文献一覧』における書評の分類、ズルツァー『あらゆる学の簡略な概念』との対比しつつ、知と文学の関係を研究することになっていた。二次文献調査によって、書評紙を逐次刊行物という形をとった百科全書とする構想は、書評紙の編集者たちにもあったこと、ノヴァーリスの「百科全書構想」は、このような啓蒙主義的な構想とは異なること、その差違は、初期ロマン主義サークルにおける構想力、ポエジーについての洞察から生じたことが判った。本年度中に、なんらかの形で研究成果にまとめたい。しかしまた、これまで書評の調査によって公論との関係を探ってきたこともあり、この観点から上記議論を再検討する必要がある。 また、本来、研究期間4年度には、コッタ社から出た『朝刊新聞』調査があてられていた。1807年の『朝刊新聞』創刊号には、ジャン・パウルが寄稿している。2019年に実施した文献調査で、マールバハ図書館所蔵のコッタ関係資料に、ジャン・パウル、娘のエマ・リヒターとの往復書簡が残されていることを確認しているが、新型コロナ感染拡大が終息する見込みなく、研究期間中の現地調査は難しい。本学図書館に所蔵の『朝刊新聞』マイクロフィッシュを中心に研究を進める。『朝刊新聞』は、ビーダーマイヤー様式を彷彿とさせる文芸誌であり、『一般ドイツ文庫』、『ドイツ学芸新聞』といった書評紙ではない。公共空間への文学の関与をこれまでとは別の角度から検討することになる。研究最終年度のテーマとして挙げられているジャン・パウルの創作活動との関連も視野に入れて調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ドイツマールバハ図書館所蔵のコッタアルヒーフを調査するため、経費を節約してきた。しかし、新型コロナウィルス感染拡大の状況のなかで、研究期間中に実地調査をする可能性はないと思われる。今年度は現地調査の代わりとなる資料の調達に研究費をあてることにした。
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